「熱でもあるの? そういえば、ちょっと熱いかな」
おでこどうしをつけたまま、想史の右手が私の頭をなでる。な、な、な、なにこれ。なんなのこの夢みたいな状況! そりゃあ熱くなりますよ!
あわあわと金魚のように口をパクパクさせていると、想史はおでこを離した。その口から出たのは、信じられない言葉。
「お前に双子の兄なんていないだろ。変な夢でも見てんじゃないの」
するっと当然のように言われて、今度はこっちが首をかしげる番だった。
想史まで、何言ってるの。あんなに仲の良かった朔のことを忘れちゃうなんて。ううん、お母さんたちと同じで、存在そのものをなかったことにしちゃってるみたい。
「さあ、もう夢の中の男のことなんて忘れて。遅れるから、行くよ」
想史はさっさと前を歩いて行ってしまう。
「ま、待ってよ~」
勇気を出して、いつもは朔に陣取られている想史の横に並んでみる。でも想史は何も文句を言わない。それどころか、それが当然であるかのような雰囲気。
邪魔者がいない。こ、これって幸せかも……。そのまま並んで学校まで歩いた。少しの間だけでも、幸せを満喫したい。そう思った私は、想史の彼女のことも、朔のことも話題に出さないように、考えないように気をつけて歩いた。