それでも、この人は
ずっと変な顔をしたまま、
私を見下ろしていて、そのまま動かない。
「だから、分かんないんだって」
呆れたように、首を横にふる。
「結局、何が言いたかったわけ?」
この後に及んで、私の覚悟を
無駄にする気か!
「だから、普通でいてって、言ってんの!」
「なんだよ、それ!」
なんだよ、それって言われても、
こっちがなんだよ、それだ!
「そ・れ・で!」
「そ・れ・だ・け!」
ムッとした顔で、この人が黙るから
私も負けずに、ムッと黙る。
「それだけで、いいの?」
「そうです」
他に、何があるっていうんだ
そしたらこの人は、
ムッとしたままうつむいて、横向いて、
なにやらブツブツ言い出した。
「俺もさ、ずーっと友達だと思ってたよ。
別に、松永と友達なんだったら
俺とも友達なんだろうし、
もちろん、他の奴らとも。
結構3人で仲良く遊んだりしてたから
それで本気で普通に友達だと思ってた」
「でしょ?」
「うん」
この人は、少し赤くなった顔をあげた。
「だからさ、俺は、別に
なんてゆーの?
普通に、仲良くしてて、
いいと思ってた」
その少し赤くなった顔を、
私の方じゃないところに向ける。
「だけど、そうか、俺じゃなくても
別にいいんだって、思ったときに
あー、そうかー、そうなんだー
って、思った」
この人が、私の一番大事なこの人が
何かを言おうとしているけど
私には、その意味がさっぱり分からない。
「そうか、俺はこいつの一番じゃないから、
一番に、選ばれることもないし、
最初から、ずっと一緒なんて
なかったんだって、気がついた」
「自分が、変に勘違いしてた気がして
すげー脳天気にはしゃいでたのが
バカみたいに見えて
とにかく、恥ずかしかった」
「それで、世界中から、笑いものにされてたような気がして
すんげーイライラした」
私は今、この人の告白を聞いている。
「なんでこんなにイラついてんのか
なんでこんなにムカついてんのか
俺は、なんでこんなに気分悪くなってんだろーって
思った時に、初めて気がついたんだ」
目が合う。
私が、初めてこの人の存在を認識したときの
あのさらさらとした感触が
今、ここにある。
「それに、気づいた瞬間、フラれてた」
さらさらとスプーンから流れ落ちる薬品の
白い粉末が、溶けていくかんじ
「いつ?」
「気づいた瞬間!」
真っ赤になってるこの人は
もう何を言っているのか
さっぱり意味が分からない。
「だから、それはいつ!」
「お・し・え・な・い!」
にらみ合った目に、火花が散る
「ぜってーお前には
死んでも教えてやんない!」
本当にこの人には
面倒くさいほど手がかかる。