大希くんと、並んで歩く帰り道
いつもなら、会話のキャッチボール? とでも、いうのか
お互いにしゃべり続けて話題がつきないけど
今日は、この人が黙りを決め込んでるから
私の方が一方的にしゃべってる。

そして、ひたすらどうでもいい弾丸トークを続けながら
私はどうやって切り出そうか、それだけを考えている。

「一樹と紗里奈の話し、聞いた?
 結局、つきあい始めたんだってね、
 信じられない!」

「最悪だな、あのバカは絶対
 女でダメになるタイプだ」

「きららと酒井くんも、不思議だよねー」

「あれは、きららが酒井を利用してるだけだろ」

「でも一樹は幸せそうだし、
 酒井くんも、たのしそうだよ」

この人は大きなため息を、怒りと共に吐き出して、
こっちを見下ろす。

「俺はもう、そういう恋愛とかに興味ないから
 帰ってくれる?」

「だから、帰ってるじゃない、一緒に!」

また大きなため息
今日のこの人は、ため息が多い。

再び歩き出したこの人に、
私は必死でまとわりつく。
覚悟の仕方が、尋常じゃないんだからね、
こっちも。

「だけどさ、幸せそうなカップル見てたら
 いいなーとか、思うでしょ?」

「お前と松永みたいな?」

どれだけへし折ろうとしてきても
今日の私は、簡単には折れないよ

「本当にそう、思ってる?」

私を見下ろすその目が
すっごく怖いけど
でも、負けない。

「何が言いたいワケ?
 俺に、松永との、のろけ話しを聞かせたいの?」

「違う。私が言いたいのは……」

「悪いけど、そういう話しは聞き飽きたから
 よそでやってくれる?」

「ねぇ」

「あのさ、俺も、悪いと思ってるよ。
でも、俺もさ、自分でも、自覚あるけど
 好きとか嫌いとか、
 そういう話しって、よく分かんないんだよね」

この人は、私の話を聞こうとしない。

「友達だと思ってたのが、そうじゃなかったり
 つき合ってるのかと思ったら
 友達だって言われたり、
 その区別が、正直俺にはつかない」

「だから、俺は、友達だと思ってたのに
 そうじゃなかったりするからさ
 そういうの、本当に今は
 ちょっと勘弁してほしい」

「俺には、境界線が分かんないんだよ
 境界線が!」

「そんなことで、勘違いばっかりして
 振り回されるのに
 もう疲れた」

この人は、ようやく立ち止まって
やっと私の顔をちゃんと見た。

「だから、俺が邪魔だったんだろ?
 あの日、松永が廊下で俺を誘ったのは
 松永の優しさだって、気がついて
 俺は、本気で自分が嫌になった」

その顔は、すぐに横を向く。

「だからもう、構ったり、話しかけたりしないから
 松永には、謝っといて」

向けた横顔は、そのままで
この人はまた、歩き出す。

「謝らない」

「え?」

先を歩くこの人が、振り返った。

「絶対に、謝らないの!」

覚悟は出来てる。