愛美には、もちろん言ってないけど
紗里奈には言った。
私と川本くんの真実
てゆーか、一緒に帰るくだらない理由
私に何のメリットもないのも悪いと思ったらしく
ものすごく気をつかって接してくれるし
いろいろおごってくれる。
お願いをされているから
私は教室を出て
玄関のところで、この人を待つ。
「あー、ゴメン待った?」
教室の中じゃあ、目も合わせてくれないから
放課後、他の男子とふざけてるのを横目に見ながら
先に降りてきた。
それに気づいてるのか、どうなのか分からないけど
そこそこ早めに、来てくれている、とは思う。
「行こうか」
今日で3日目
よく考えてみたら
私もこんな面倒くさいこと、なんでやってんだろう
さっさと断って、先に帰っちゃえばいいのに
この人は、すぐ近くのコンビニで
ピザマンを買ってきた。
「いつも肉まんだと飽きるかなーと思って」
それを半分に割って、私に手渡す。
「俺も食いたいけど、金がないから
半分こね」
「そんな、無理しなくていいよ」
その半分に、もうかじりついているこの人の手から
残りの半分を受け取る。
「餌で釣られる、誘拐犯じゃないんだから」
私が一口かじるのを
この人が横で見ている。
「じゃあ、餌がなくても、来てくれる?」
秋も終わり、冬の外はすごく寒くて
手の中のピザマンから
ほくほくと湯気がたっている。
「別に、それでもいいけど」
「でも、面倒くさくない?」
この人は、私の隣に座って、空を見上げる。
「わざわざ、時間合わせて一緒に帰るとか」
「まぁね」
「出来ないでしょ」
「でも、本当に好きな人とだったら、出来るかも」
私はピザマンをかじる。
トマトの、酸っぱい味がする。
この人は、少し考えてから言った。
「俺じゃ、無理だったか、やっぱり」
「え?」
「いや、なんでもない、はは、ゴメンね」
そんなに照れた顔で、恥ずかしそうにされても
こっちも困る。
「もういいよ、明日でお終いにしよう。
俺もさ、横山さんに、変なお願いしちゃったなと思ってさ。
あいつらには、俺からちゃんと断っとくから」
そう言って、本当にすまなさそうな
笑顔を見せる。
「つき合わせて、ゴメン」
こちらこそ、好きでもないのに
つき合わせてゴメンねって
そうやって言ったら、
本当に全部が終わりそうな気がして
分厚いピザ生地と一緒に、飲み込んだ。
この人が、うつむいて黙っている。
なんかもう、どうせなら
こんなチャンスに、
もっと楽しく、うきうきで過ごすべきだったと、
そんなことが、今さらひらめいたりする。
「ねぇ、帰ろう!」
元気よく、立ち上がって、
この人の手を引く。
「ほら、ね」
しゃがみ込んでいた歩道から引き上げたこの人は
笑って立ち上がる。
「よし、帰るか!」
この人の言う冗談に、私は全力で笑って
この人は私の言うことを、何でもおもしろがって
聞いてくれた。
コンビニから駅までの距離を
私たちは妙にはしゃいだまま、帰った。