「おはよー!」

今日も私は元気に校門をくぐり
教室に飛び込む。

席について、鞄を片付け
後ろを振り返る。

いつもの風景

酒井地蔵前にあつまる友達
きらら、松永、紗里奈
そこに私も加わって、楽しくおしゃべり

それで、いいんだ
幸せなんだよ

ふと見上げた教室の向こうには
あの人の姿

愛美と、愛美の友達の女の子と
3人で何かしゃべってる。
知らない女が、あの人の肩に触れた。

何気ない風景
たぶん、誰の目にも
それは全く問題のない平和な日常で
どうしてそんなことを問題にしようかなんて
思いつきもしない。

違うクラスの女だ、
たぶん愛美の、学園祭関係で知り合った
愛美の彼氏繋がりの女

3人でいるその風景は
あまりにも自然で、普通で、
最高にイライラさせられる。

「どうかした?」

紗里奈が言う。

「ん? 別に」

その風景に背を向けて
楽しくて平和な会話の中に無理矢理入り込む。

そうすることが、一番の幸せ
誰よりも、そうなんだと
自分で自分がよく分かってる。
でしょ?

教室の中の声が
世界中の音が、
あの人の声だけを残して
全てこの世から消え去ってしまえばいい

そうじゃないから
あの人の声が
聞こえない

立ち上がる
私は、あの人のところに向かって
歩き出す。

『ねぇ、なんの話ししてるの?』

『今日さ、一緒に帰ろう』

たったそれだけのことが
出来ない。

出来ないけど、出来ないって
しないって、決めたのは誰?

あの人に、新しい彼女が出来る
つき合う、別れる、また新しい彼女が出来る
それの繰り返しで
私は、その輪の中に入らないって
決めた。

どうして、その席は
一つしかないんだろう
待って待って待って待って
順番にお行儀よく待ってたら
それで、いいんじゃないの?

チャイムが鳴る
女が出て行く
あの人は、私に背を向けたまま
何も知らずに
平和な何気ない一日を過ごす

そして私も同じように
平和な何気ない一日を過ごす

深呼吸

時々、ふり向くあの人の横顔を
ちらりと見てるだけで
それだけでいいと思っていたのに

この気持ちがちゃんと届いたら
いいのになって思ってる。

私の目の前に、松永が座った。

「今日さ、帰り、一緒に帰ろ」

「うん、いいよ」

目も合わせずに、そう言ったら
松永は、ふいって、どこかに消えた。

そういうところだけは、あの人はしっかり見ていて
その直後に私と目を合わせて、
にっと笑ったり、する。

そんな、何気ない平和な日常