次の日も、そのまた次の日も
私たちは、普通に登校して
普通に過ごす。

松永とも普通にしゃべるし
2人で一緒に食べ歩きにも行く。

私は、配らなければならないノートを
あの人の前に置いた。

「あぁ、ありがとう」

そっけない返事、
私はそれだけで用事が済んでしまったから
すぐにその場を後にする。

「それだけ?」

振り返ったら、大希くんはため息をついた。

「なんか、寂しくない?」

何が言いたいのか分からないから、
私はその場でたたずんで
この人の次の言葉を待つ。

「俺が、悪者にされたかんじ」

「なんのこと?」

そうやって言ったら、
この人は、本当に心外だったらしい。
真っ赤になって、明らかに動揺してる。

「なんのことって、
 そんなことも分かんないのかよ」

「うん、分かんない」

あなたの考えていることは
どんなことでも、
大抵分からない。

この人は、何かを言いたそうで
でも言えなくて、
ずっと言葉を探しているみたいだったけど
ついにあきらめた。

「なら、もういいよ」

私はこの人に背を向けて
次のノートを配りに行く。
追いかけてくる視線に
気づいてるけど、気づかないふり。

あの人は、ついにそれもあきらめた。

本当はね、分かってる。
松永に告白される前、
私が、勢いでこの人に言ってしまったことと、
言いそびれたこと。

だけど、その続きは
何があっても、絶対に教えてあげない。

もう一生、この人としゃべれなくなってもいい
絶対に、教えない。

ノートを配り終えて、廊下に出た私を
大希くんが待ち伏せていた。

「松永と仲直りできて、よかったね」

「うん、ありがとう」

そうやって無理矢理話題を持ってきたって
悪いけど、その手にも乗らない。
あの人の横を、無言で通り抜ける。

私が守る、この人との関係性を
あなたにだって、壊させない。

ずっと、好きなままでいたいから

「たまにはさ、前みたいに
 みんなで一緒に帰ろうぜ!」

ふいに背後から投げつけられたその言葉に、
私は、つい振り返る。

「それくらい、いいだろ?」

そう言って、さわやかな笑顔を振りまき、
無邪気な顔で、大きく手を振るこの人を
私はどう扱っていいのか、全く分からない。

この人は、多分本気でそう思ってる。
私の気持ちなんか、全く想像すらしないで

仕方ないから、黙ってうなずく。
恥ずかしくて、悔しくて
自分の顔が、真っ赤になっているのが
嫌なほど分かる。

「やった」

あの人はそう言って、教室の中に消えていった。

それでも平気でいられるこの人の
考えていることは、全然分からない。