松永と、よく分からないけど
仲直りみたいなことをして
それからまた、普通に普通で
しゃべるようになった。
なんかちょっと、変なかんじ。
あの空白の時間は
私にとっては、単なる空白だけど
松永にとっては、
どんな意味のある時間だったのか
謎でしかない。
それでも、松永は、
楽しそうに、うれしそうにしてるから
私も、同じように気分よく側にいられる。
松永が楽しいのなら
私も楽しい
「松永と、すっかり仲直りしたんだね」
廊下を歩いていたら、
大希くんに声をかけられた。
仲直りとか、この人が何を思って
そんなことを言ったのかは分からないけど
多分、回りから見たら、
そんな風に見えるんだろうとは思っていたから
素直に『うん』と、答えておいた。
「なんか、心配して、損したってかんじ」
「なにを心配してたの?」
「えぇ? ちゃんと、仲良くやってるかなーとか」
息の根がとまりそう。
この人に、こんな心配をされる筋合いはないのに。
「別に、そんなこと、どうでもよくない?」
「なんで? だって、うまくいった方がいいでしょ」
うまくいくって、なにがどうなったら
そういうことになるんだろう。
なにがどうなったら、
うまくいっていることに、なるんだろう。
「なんか、そういうの、よく分かんない」
「おいおい、ちょっとは、見直したんだぜ、
俺と同じ、仲間かなーなんて、思ってたのに
ちゃんと、仲直りしてたから」
何を勘違いしているんだ、相も変わらず
この人の、そんな無神経な言葉に
頭が痛い、全身の力が抜ける。
私が好きなのは、松永じゃないのに
この人は、自分と愛美のことを
私と松永に重ねて見ていたんだろうか
「仲間ってなに?
私、川本くんと、同じ仲間になんか、されたくない」
思わず口調が、厳しくなる
どうして、こうもうまくいかないんだろう
言いたくもないし、聞かせるつもりもなかった言葉が
本音と嘘を合わせてあふれ出す。
「自分と、愛美のことを言ってるつもり?
私、応援なんて、してなかったし
つきあってたのも、知らなかった」
「川本くんが、どんな女の子とつきあおうと
私には関係ないし、
私が誰と仲良くても、
他人が口出しすることでもなくない?」
「そんな人の噂話ばっかり気にして
自分のことはどうなのよ」
「自分のまわりのことも、よく分かってないくせに
私のことなんて、ほっといてよ」
顔をあげたら、この人は
すっかり固まっていた。
「私のことなんて、本当は何にも
気にしてないくせに!」
そうだ、私のことなんて、
放っておいてほしい、なんで構うの?
この人の言葉は、この人にとって
なんの意味もない、ただの挨拶みたいな会話だって
誰よりも、私がよく知っている。
だから、余計なことばっかり、言わないで!
「みなみちゃん」
廊下の向こう、私の背中から、松永の声がする。
あぁ、終わった。
この人の声じゃない、松永の声
私が今一番、声をかけて欲しかったのは
私が今、一番言いたいことがあったのは
松永じゃなくて、目の前にいるこの人
だけど、その最後の引き金を、引かずにすんだ。
私は、そんな松永に
救われもするし、苛立ちもさせられる。
「行こう」
松永が、私の手をとった。
強引にその手を引いて
私を引きずり出す。
だから、ゴメン松永
私は、こんなところを
あの人に見られたくない。