だって、焼き芋だよ?
焼き芋に誘われて
果たして断れる女の子がこの世にいるのだろうか
いいや、私は断れない。

いつものように、という言葉が
違和感なく出てくるくらい
いつものように、
二人で待ち合わせて、教室を出る。

なんだか今日は
とても楽しい
久しぶりのせいかな

道を歩く間も
相変わらず松永はしゃべり続けて
それに適当に相づちを打ちながら
話しを合わせているのも
それなりに楽しい。

そう、楽しいのだ。

松永が笑うから、私も笑って
なにも考えずにいられるのは
とても自由な気がした。

「松永はさぁ、結局
 あずき派なの、きなこ派なの?」

「しょうゆ派でもあるし、抹茶派でもある」

「あはは」

とても自由な気がした。

店の前に着くと、松永の言った通り、
店先に石焼きの釜を出していて
時間ごとに、焼きたての芋を売っていた。

「うっ、一本が、結構高くない?」

「だから、半分こしようよ」

「分かった」

松永の手から、焼きたての、
半分を受け取る。

「熱いから、気をつけて」

新聞紙にくるまれたそれを
並んで食べている姿は、
きっと他の人たちから見れば
仲良しカップルに見えるんだろうな。

「のど、乾くね」

「お茶買ってこようか?」

「ううん、私が買ってくる」

食べかけの芋を松永に渡して
近くの自販機にコインを落とした私は
振り返った視線の先に
大希くんを見つけた。

その瞬間に、
なんとなく、この人には
こんなところを、見られたくなかったと
思ってしまうのは、どうしてだろう。

「うわ、本当にいた。
紗里奈ちゃんから聞いたんだ、
 ここに芋食いに来てるかもって」

松永は、黙ってこの人に
私の食べかけの方の芋を差し出す。

「お、やったね」

「ちょっと、それ私のー!!」

遠慮の欠けらもなく私の芋をむさぼるこの人に
からみついて文句を言っている私を見て
松永はどう思ってるんだろう。

松永は、黙々と自分の芋を食べている。

「分かった、分かった、ちゃんと返すって」

ようやく奪い返した芋は
半分以上かじられていた。

「ひどいー!」

「ちゃんともう一本、買って返すから!」

笑いながら、あの人は
新しいのを買いに行く。

「よかったね」

その背中に向かって、松永は言う。
正直、何がよかったのかは分からないけど
松永がそんなことを言うのは
なんか不思議な感じ。

あの人は、買ってきた芋を半分に折って
それを私にくれた。
でももう、さすがに全部は食べきれなくて
困っていたら、松永が私の手からそれを取り上げて、
ぱくっと全部食べてくれた。

「帰ろっか」

「うん」

いつものように、3人で並んで歩く帰り道が
喉にひっかっかた焼き芋みたいで
ちょっと飲み込むのに、苦労した。