昼休み、教室のベランダに出て
紗里奈と2人、ぼんやりと外を眺めている。
「みなみさー、
最近松永くんと、なにかあった?」
「何もないから、何もなくなった」
「あっそ」
それで紗里奈は分かってくれるから
非常にありがたい。
「いいんだ、それで」
「うん」
いいも悪いも、
選択権は、私にない。
「紗里奈はさー」
「うん」
「一樹とつきあい始めた?」
とたんに、紗里奈の顔が赤くなる。
「やっぱり」
「ちがうって!」
紗里奈は、ベランダの手すりに両腕をのせ
その上にさらに、自分のあごをのせた。
「なんかさ、こういうのって
よくわかんないよね」
「一樹のこと、好き?」
「嫌いじゃないよ」
どこかで聞いた台詞だなと思いながらも
紗里奈の口から聞くと
妙に納得出来るから不思議だ。
「じゃ、つき合っちゃえばいいのに」
「そういう問題でも、なくない?」
そんな軽い台詞も、簡単に自分の口から出てきた。
秋の空、冬服に変わった私たちは、
ベランダに並んで、そんな話しをしている。
「じゃ、松永くんのこと、好き?」
「……嫌いじゃないよ」
「なんでつき合わないのよ」
そう言われると、返事のしようがない。
「なんか、よくわかんないよね」
「ホントだね」
「何がよく分かんないの?」
松永の、久しぶりに聞くその声に
私もびっくりした。
「あぁ、ゴメン、私、
用事思いだしたから!」
紗里奈、突然の退場。
気を利かせたつもりかもしれないけど、
私は、取り残された気分だ。
そんな必要、一切ないのに。
「なんか、久しぶりだね」
「そうかな?」
松永は、さっきまでの、
紗里奈と同じ格好で
手すりにもたれかかる。
そんな横顔を、間近に見るのも
久しぶり
松永は、じっと黙ったまま
動こうともしないし
なにも話さないから
私もそのまま、じっとしている。
松永の、その少し離れて立つ微妙な距離感を、
自分の足で一歩詰めようかどうしようか
悩んでいる自分がいた。
そのことに気づいて
改めて分からなくなる。
この距離感。
「今日も、いい天気だね」
秋の空はどこまでも高くて
松永の伸ばした手の平から
こぼれ落ちる光りの粒が
くるくるまわる、蝶々みたいに見える。
「明日もきっと、いい天気だねー」
私も、両手を差し出す。
きっと、松永が女の子で
友達だったりしたら、
すっごく仲良しだったと思う。
松永が、急にふっと笑ったから
私は、差し出した手の平を
もっと伸ばしてみる。
その両手一杯に受け取ったあたたかい光りが
私たちのわだかまりも、溶かしてしまったみたいだ。
松永も、真似して両手を広げる。
「あったかいね」
「本当だね」
「駅前の角のお総菜やさんがさぁ
焼き芋始めたらしいよ」
「マジで?」
「行く?」
「行く」
松永の仕掛ける簡単なトラップに
そうと知りつつも、
私はまた、簡単に引っかかってあげる。