その日の夜、松永から来たラインは
全部無視した。

大希くんになにか送ろうか、
ずっと考えてたけど
結局なにも打てなかった。

きっと、明日の朝、教室に入ったら
松永が飛んでくるから
喧嘩しないといけない。
そしたら、今日のあの人との時間が
嘘じゃなくなるから。

そういう覚悟で来たのに、
松永は普通に酒井地蔵前で
きららとなんか爆笑しながら
わりと盛り上がってて、
私はなんとなく行き場がなくて
自分の席に座ってた。

あの人はクラスの他の男子と群れてて
紗里奈とかもいなくて、
みんながいる教室の中で
あぁ、『ぼっち』って、こういうことかなんて
初めて分かったような気がした。

「来てあげたよ」

どうやってこの時間を潰そうか、迷っていたら
突然目の前に大希くんが現れて
私の前に座った。

「なんか、見ていられなかったから」

そうやって、いたずらっぽく笑うのとか
本当にやめて欲しい。

口元を手で覆って、
何かを耳打ちしようとするから
私はこの人に、耳を傾けた。

「多分ね、こうやってしてたら
 松永が飛んでくるよ」

その言葉に、うなだれた私を見て、この人は笑った。
私と目があう。
二人で同時に、振り返った松永は
まだ、きららと話していた。

「あれー、絶対見てるはずなのになー」

「だから、そんなんじゃないんだって」

「え? 喧嘩してんじゃないの?」

どう説明していいのか分からないので
困っていたら、タイミングよく紗里奈が来てくれた。

「うわ~、何の内緒ばなし?」

「え、秘密」

とっさにそんな台詞を、どこで思いつくんだろう
この人と紗里奈は、楽しそうに笑う。
そこから3人で、たわいのない話しで盛り上がったけど
結局、その日一日、松永とは何もしゃべらなかった。

ま、いいんだけど。

結局私には、浮ついた事件なんて
起こるはずもなく、
頑張っているようで、頑張ってない、
報われない努力をきちんと無駄に終わらせることしか、
出来ない人間なんだなーって思う。

そもそも、モテる要素なんて
何一つ持ち合わせていないんだから、
あの人にも見てもらえないし、
無視し続けてたら、松永だって
簡単にどこかへいってしまう。

必死でしがみついて、
つかめる可能性があるのなら
頑張れるけど、
それが微塵も見えないんだから
仕方がない。

費やした時間と労力に
見合う結果が出ないと分かっているものに
夢中になんて、なれるわけがない。

あの人は、男子とたわむれている。
松永は、終了のチャイムと共に
どこかに消えた。
紗里奈もいないし、
今日はもう、一人で帰ろう。