愛美に、新しい彼氏が出来た。
それは、一つ学年が上の先輩らしくって
最近よく、並んで歩いているところを
見かけていたから、察しがついた。

最初は、朝の登校の時に
靴箱の前で、よくしゃべってるのを、見かけた。
愛美はすごく、楽しそうだった。

それからしばらくして、
靴箱の前では見なくなったけど
昼休みに、2人で一緒にご飯食べたりしてる。

私が、その先輩の顔を覚えてから
気づいた事がある。
待っているのは、愛美だけじゃないし、
先輩だけじゃない。

2人でちゃんと待ち合わせて
お互いがお互いに、一緒に会おうとしているところが
いいんだと思う。素敵。

幸せそうなカップルになれて、
本当によかった。

3人で並んで、コンビニ前で座り込み
棒アイスを食べてるときに
愛美と彼氏先輩が、目の前を通り過ぎた。

私は、もちろんそのことを知っていたし
松永も、きららから聞いて知っていたと思う。
大希くんだけが、口からアイスの棒を吹き飛ばした。

「なにあれ」

「は?」

「今の見た?」

「知らなかったの?」

落としたアイスの棒を、
この人は拾い上げる。

「いや、知らんし」

その拾った棒を、ぐりぐりと地面に押しつけたり
そこについた傷を丹念に確認したりしたあとで
備え付けのゴミ箱に捨てに行った。

「あー、びっくりした」

「別れたんでしょ」

思わず、そんな言葉が口に出る。

「あー、うん、そうなのかな?」

この人は、自分の頭を掻きむしる。

「あぁ、うん、そっか、そうなのか
 そういうことか」

なんだか、ショックを受けているみたいに見えるのが
私には不思議。

「はぁぁぁ~」

この人の、大きなため息
ため息と言うよりも、
痛みに近い、悲鳴

そのまま膝を抱えて
動かなくなってしまったから
私と松永は、反応に困る。

「でもさ、いいよね!
 ほら、うちらってさ、
人生で彼女とか彼氏とか、いたことないしね!」

「え?」

私に話しをふられた松永が、もの凄く迷惑そうな顔をする。
ちょっと、ここはあんたの得意な会話術で
なんとかこの場を和ましてくれ。

「私も、彼氏ほしいなーなんて」

はは、そんなこと、私が松永に言う台詞でもなかったし
この人に、聞かせたい台詞でもなかった。

松永は、めっちゃ眉間にしわを寄せているし、
この人からは、負のオーラしか漂ってこない。

「俺、先に帰るわ」

勢いよく立ち上がり、
遠ざかっていくこの人の背中を見送りながら
私もため息をつく。

「彼氏、ほしいの?」

松永の前で、言う台詞じゃなかった。