昼休み、それはもう、戦闘が始まる前から
戦闘が始まっている。

4時間目が始まる前の、休み時間、
私たちは、ポケットに財布を忍ばせ、
チャイムと同時に飛び出すことを
事前に約束している。

どれくらい、本気になれるかが
勝敗を分けるのだ。

授業の終わりが近づく。
ここでちょっとでも、先生の話が長引くと
出足をくじかれることになり、
勝率が著しく低下していまう。

時計の針と共に、順調に終わる兆しが見えた。

「では、今日はこれで終わります」

チャイムの音。
私たち3人は、勢いよく教室を飛び出した。

全力で階段を駆け下りる。
先頭は大希くんで、
私は、懸命にその背中を追いかける。

たどり着いたパン売り場の前には、
チャイムと同時に走り出た私たちよりも
どうやって先にたどり着いたのか分からない
沢山の人集り。

あぁ、今日もダメなのか

私は、ため息をついて立ち止まるのに
あの人は果敢に攻め込んでいく。

「うわ、今日も厳しいね」

松永は、私の横に立って
激しい争奪戦を、少し離れたところから見ている。

「どうする?」

松永よ、私に、なぜそんなことを聞く?
松永は、自分の意志で、来たんじゃないのか?

「松永は、なんでここに来たの?」

目の前には、果敢に戦いを挑む
あの人の姿がある。

「私は、すき焼きパンを
 買いに来たのよ!」

そこから一歩を踏み出し、荒海に飛び込まなければ
本当に、欲しいものは、手に入らない。

私は、松永とは違う、
あの人の好みにあわせて、ここに来たんじゃない。
純粋に、すき焼きパンを求めて
ここにやってきたんだから!

意を決し、鼻息荒く、戦場へと
大きな一歩を踏み出そうとした私の腕を……
松永がつかんだ。

「あぁもう、分かったよ、あぶないから
 俺が買いに行く」

見上げた松永の横顔は
強い決意に、満ちていた。

「そこで、待ってて」

松永が、死地に向かって駆け込んで行く。
今頃行ったって、もう遅いって、
すき焼きパン買えないって、
分かってるのに。

「おーい、松永! 
 パン、買えたぞー!」

次の瞬間、
大希くんは、両手にすき焼きパンを抱えて、帰ってきた。
松永の、決意に満ちていた顔がゆるむ。

「いや~、1人3個まで買えるっていうから
 ちょうどよかったよな」

大希くんは、松永の手に勝ち取ったパンをのせた。

「はい、あげる」

私の手にも、幻のすき焼きパン。

「教室戻って、一緒に食おーぜ」

この人の、さわやかすぎる笑顔は、
全てを吹き飛ばす魔力を持つ。
松永の決意も、私の迷いも

だけど、
見上げた松永の顔は
少し沈んでいるように見えた。

「よかったね、買えて」

「うん」

私たちは、教室に戻って
きっと、何事もなかったように
仲良くすき焼きパンを食べる。