次の日、学校に来たら
猛烈に松永に怒られた。

「あのさぁ、俺は、川本の食欲につき合うために
 一緒に帰ってんじゃないの!」

「まぁ、そうだろうね」

「それが分かってるなら、
 俺を助けてよ!」

「なんで?」

「なんでって、それは……」

「じゃあ、ついてこないようにすれば?」

「は?」

「いつも思ってたけど、別についてこなくても
私は1人で帰れるから、大丈夫だよ」

「…………。
まぁでも、帰る時間も方向も一緒だし」

「それは、川本くんもそうだよね」

「まぁね」

「じゃ、別にいいんじゃない?」

「……。まぁ、ね」

そんなことを言い合っているうちに
大希くんもやってきた。

「あれ? どうした、喧嘩?」

「あのさー、松永が川本くんから守ってとか
 乙女みたいなこと言ってるー」

「俺は、お前を襲うつもりはないから
安心しろ」

「そうじゃないって!」

乙女な松永は放っておいて、
大切な問題に入る。

「ねぇ、川本くん、英語の宿題、やってきた?」

「俺がやってくるわけ、なかろう」

「えー、どうしよう」

そして松永は、とてもタイミングよく
ノートを取り出す。

「横山さん、英作苦手だよね!
 いっつも他の人にノート見せてもらってるから
 代わりに俺がやってきた!」

そんな真っ赤な顔で、怒りながら渡されても……。

「ありがとう」

「さすが松永、愛してるよ!」

この人に抱きつかれて、嫌がってる松永を見ると
むかつく。
私が宿題ノートを提供しても、
この人は抱きついてくれないのに。

「いいなー、松永」

「なにが!」

「別に」

昼休み、最近すっかり一樹に紗里奈をとられてしまったので
私は、ぼーっと教室に座っている。
私の定位置だった酒井地蔵前には
宇宙人きららがバリアを張っていて
へたに近寄ると、怪電波で精神と肉体の自由を奪われるから
やめておいた方が無難だ。
あれに耐えられるのは、酒井地蔵ぐらいだし。

そうやって、昼休みにぼーっとしていると
松永がやってきた。

「なにしてるの?」

あの人は、先生に呼び出されて
職員室に行ってるから
ちょっとさみしかったんだ。

「なにもしてない」

「あぁ、そういえば、
いつもそうだったよね、
基本、なにもしてないよね」

松永は、私の前に座った。
そこは、本来あの人の席、
そこに松永が座る。

「そこに座っていいのは
 私とあの人だけなんだけど」

「そんなの、誰が決めたの?」

「私」

「じゃあ座る」

最近、松永はすぐ怒る。

「はい、生物のプリントのコピー
 とっといてあげたよ」

だけど、相変わらす、優しい。

「ねぇさぁ」

「なに?」

「最近気づいたんだけど、
 松永って、優しいよね」

「よかったよ、それにようやく気づいてもらえて」

「……」

「…………。なに?」

「明日の理科の問題集もよろしく」

松永は、怒って出て行った。

そんな松永の背中に、私はふと
自分でも思いがけない、ありえない思いが
脳をかすめる。

松永って、いつも私に構ってるけど
好きな人って、いるのかな。
紗里奈狙いだと思ってたけど
どうも、そうでもないみたい。

……一体、誰が好きなんだろ?