高校一年生、春の遠足は、
いつくかある大型公共施設のなかから
自分たちの班で選んだところに向かうことになっている。

「ねぇ、同じ班にならない?」

この班決めという無慈悲な法律は
きっとこの世に大革命が起きても、
変わりはしないのだろう。

「6人から8人って、先生に言われたでしょ?」

しかも、よりにもよって
私の宿敵、高梨愛美に
向こうから誘われている。

「ほら、横山さんは、加藤さんと仲がいいじゃない?」

お前たちのよーなトップカーストに誘われて
断れるわけがないじゃないか。

「そしたら、2、2で女子が決まるでしょ、
 男子も、2、2でグループ作っちゃえば
 8人の班がすぐに出来るし」

それで、他者の乱入および
先生の介入も早めに回避しようという計画か、
さすが、ぬかりない。

私は、紗里奈と顔を見合わす。
紗里奈も分かっている。
断る選択権など、私たちに与えられていないことを。

「うん、私は別にいいけど」

「横山さんは?」

「私もいいよ」

「じゃ、決まりね!」

あー、男子は、他に誰を誘うんだろうな。
そんなことを知る権利すら、
私たちには与えられてないのだ。

高梨愛美が、あの人のところへ走って行く。
その隣には一樹もいる。

「高梨さん、みなみが川本くんのこと嫌ってるから
 同じ班に誘ったのかもね」

やっぱり、紗里奈もそう思う?

「だって、他の女子誘うより、安全だから」

さすがだね、親友。

私はきっとこのまま、
あの人と同じ班になってしまう。

「ま、班決めで苦労したくないから、いいよ」

その言葉に、紗里奈は、深刻な顔で私を見た。

「みなみが川本くんと一緒の班が嫌なら
 私、今からでも断ってくるよ!」

その熱い使命感に燃えた紗里奈に
私は涙が出そうなくらい感動した。

「ううん、大丈夫。平気だから」

「無理なら、無理って、
 ちゃんと言うんだよ!」

どうやら、その他組の男子は、
私たちと同じ地味系の
松永圭吾と酒井裕真にしたらしい。

松永くんは、無造作ヘアの眼鏡、
酒井くんは、七三になってるけど
多分二人とも、うまれつきのつむじの関係。

私が、高梨愛美を自分のライバルと認めるには
ワケがある。

この男子のチョイス。
間違いなく同じ班となる私たちに
一定の配慮を示した形だ。

その他組の男子の中では、
悪くない。むしろいい方。
顔も性格も、中の上。
きっと、私たちとも気が合う、
上手くいく、楽しい遠足になる。

「あ、男子は松永くんと酒井くんかー。
 よかった。それなら大丈夫そうだね」

紗里奈も安心したみたい。
分かるよ、その気持ち。

教室で、高梨愛美と、あの人がしゃべってる。
なんの話しだろう、遠足のことかな
すごく盛り上がってて、楽しそう。
だからって、なにがどうこうってわけでも
ないんだけど……。

あの人はやっぱり
遠くから、見てるだけの存在。

行き先は、水族館に決まった。

本当は、美術館がよかったけど
仕方ないよね。
行きたきゃ、自分で行けるし。

きっと、あの人と違う班になって
別のところへ行くことになっていたら
私は一日中、この人のことを考えながら
今頃、なにしてんだろー、とか、
あー、今日はあんまり顔見れなかったなー、とか、思いながら
遠足の日の一日を過ごすんだろうな

そうなるよりは、ずっといい。

「横山さんと、加藤さんか、よろしくね」

連れてこられた松永くんが、
私たちにも挨拶してくれる。
いい奴だ。

「わー、みんなの私服姿が見られるのって、
すごい楽しみー」

高梨愛美が、ここですかさず、ハードルを追加してくる。

そう、この遠足は、
制服じゃなくて、私服遠足。

まさに、追い込み漁的ななにかだ。