学園祭の準備は進んでいく。
実行委員だけじゃなくて、クラスの方も忙しい。

私たちは、飾り付け用のモチーフを作ったり
チケットを数えたり、店の配置を考えたり……

愛美が、忙しそうにしているのを見て
ちょっと安心した。
大希くんとも、一緒に行動することが多くて
話すことも、自然。

「明日の委員会、何時だったっけ」

「3時から、視聴覚室」

あの2人が上手くいってることに
ほっとする日がくるなんて、
夢にも思わなかった。

「分かった。じゃあ俺は、先に帰るわ」

「うん、お疲れさま」

「またな」

「じゃーね」

…………。
え? 会話って、それだけ??
マジか

にこにこ笑顔の愛美が、
酒井地蔵前にやってくる。
そこには既にきららがいて、私もいる。

「おー、進んでるねぇ」

愛美は、薄い紙を束ねて広げる、紅い花をひとつ持ちあげて
その香りのない、においを嗅いだ。

「う~ん、しゃかしゃかで、もふもふ」

「なにそれー」

きららは声を出して、けたけた笑った。
愛美も笑う。

そこからの、本気でたわいもない
無意味なおしゃべり。

きららにも、あの人と愛美の無機質な会話が
聞こえていたはずなのに。

きららも、本当は優しくて、気遣いの出来る子で
愛美が、普通に普通なのが
よけいに苦しい。

私には、あの横顔が、忘れられない。
野外キャンプの前に
あの人が好きだと宣言した
愛美の無敵の横顔を、忘れられない。

酒井くんが、もくもくと作業を進めるから
私もそうしてるけど、
きららと愛美の、この2人は、遊んでいる。
酒井くんが何も言わないから
私もなにも言わない。
愛美にはきっと、それが一番大事。

「そろそろ、片付けて帰ろー」

きららの一言で、酒井地蔵のスイッチが切り替わった。
一切の無駄な作業も、スピードにも変化をつけず
終了作業へと瞬時に対応、さすが酒井地蔵、煩悩がない。
きららに言われるがまま、
出来上がった花を運んでいく。

教室で、愛美と2人きりになった。

私には、どうしても聞きたいことを
愛美に聞く権利がある、と、思う。

「ねぇ」

「ん?」

「川本くんと、うまくいってる?」

「頑張ってるよ」

そう言って、愛美は笑った。
これは、それ以上聞かないでの、合図。

「そっか」

「うん、じゃあ、また明日」

愛美は逃げるように、教室を出て行く。

私は、愛美が嫌いだ。
自分よりブスだと思ってるし、性格も悪い。
いつも、ぎゃあぎゃあと、うるさいだけで、頭も悪い。

だけど、いま私に向けた笑顔は
いつも以上に、気色悪い。
そんな顔をして、宿敵であるはずの私に
妙に愛想のいい愛美は、すんごい嫌いだ。

あの人との関係に、苦しみながらも
じっと耐えている愛美は、もっともっと嫌いだ。