大希くんが、愛美を避けている。
はた目には、分からないかもしれないけど
私には、分かる。
何気ないところで、あの人は、愛美を近寄せない。
一樹のところにも、酒井くんのところにも
愛美が来られる所には、あの人はいかない。
他の男子と、愛美とあまり接点のない男子と
遊んでる。
愛美が、普段と全く変わらないつもりで
酒井地蔵に参拝に来るのを
私たちは、そっと受け入れる。
きららも騒がないし、触れない。
この優しさはね、貴重品。
私もそれをもらったから、分かる。
「もうすぐ、学園祭だね」
従者として、ますます風格の出てきた松永は
長袖のシャツの袖をまくっていた。
「今日はたしか、実行委員を決めるんだったよね」
そんなものが、クラスの話し合いで決まるわけもなく
くじ引きの結果、委員は、あの人と愛美に決まった。
神さまって、意地悪だなって、思ってたら
松永は、そんな私に言った。
「これで、また元に戻れば、いいのにね」
なるほど、そう考えるのが、正解か。
私は、松永を見上げる。
「本当だね」
愛美はきっと、辛い思いをするだろう。
私は、それを横で見ている。
それが、自分じゃなくて、よかったって。
そんなことにならなくて、よかったって。
クラスの出し物は、お祭り屋台に決まった。
スーパーボールすくいと、ヨーヨーすくいと、
わたあめを作る。ジュースとかも、売る。
最初は、委員になってしまったあの人も
嫌がってたみたいだけど
今はちゃんと、仕事してる。
愛美と2人で、委員会に出席して
クラスの屋台の準備も
切り盛りしてる。
「あー、おまえら
ヨーヨーの、買い出し班だっけ?」
書類を片手に、あの人が尋ねてきた。
「うん」
「会計から、お金もらった?」
「うん」
「ちゃんと、買ってこいよ」
「うん」
「買い出しの店、分かる?」
こんな普通の会話を、普通に話せることが
私にとって、何よりの喜び
「じゃ、任せたからね、
なにかあったら、俺に言えよ」
そんなパーフェクトスマイルを、向けてもらえるのは
何よりも幸せ
愛美には、もう向けられないその笑顔
私は、つき合ってないから、友達のままだから、
ずっとこのままでいられる。