朝、学校に来て、
私の指定席となった酒井地蔵の隣に
最近はきららと一樹が、先に来ている。
そのことに、私は今までとは違って、
遠慮なくムッとした表情を露わにする。
「なんだよ、そんなに嫌そうな顔するなよ」
一樹が何を言っても無視。
ひらひらと手を振って一樹を追い払い
自分の席に座る。
「だから、追い払うなって!」
それでも一樹は、ガタガタと椅子を動かして
酒井地蔵の側から離れない。
酒井地蔵の霊力は、凄い。
「でね、昨日のテレビでさぁ~」
きららは、本を読んでいる酒井地蔵さまに向かって
やっぱり遠慮なく、勝手にしゃべってる。
「は? 知るかよ、
そんな番組、見てねーし!」
一樹は、言いたい放題。
「二人とも、うるさい」
私も、言いたい放題。
「はは、みんな、おはよー」
紗里奈が来た。
一樹は、紗里奈を見て
ちょっとうれしそうな顔をする。
おいおい、一樹、
お前は、紗里奈に目をつけたのか?
「ねー紗里奈、昨日2人でさぁ、
ラインで一樹の悪口、言ってた続きだけどさー」
「は? なんだよ、それ!」
「大丈夫だよ、一樹くん、
みなみが言ってるの、嘘だから」
はは、一樹が怒ってる。
面白い。
発見した。
こいつをからかって遊ぶのは
とても楽しい。
松永もやってきて、
自然に輪の中に加わる。
そうだ、私が普通にしていれば
私がちゃんと変われば、
世界はこんなにも明るくて、楽しい。
「横山さんは、日本史の小テスト
勉強してきた?」
松永は、おっとりしてて、
男子にしては、話しやすい。
「うん、ちょっとはね」
私はみんなと、とりとめのない
ゆるやかな話しをする。
幸せな時間。
「おっはよー、ねぇ、聞いてー!」
そこへ、愛美もやってくる。
「大希がさぁ……」
私はそれを、
今ではちゃんと、受け止められる。
「愛美、あんたののろけ話しは、いらないから」
「なんで?」
「興味ないし」
みんなは、苦笑いしてるけど
ムッとした愛美を私は鼻で笑って、
くるっと前を向く。
そう、それでいい。
「みなみは、彼氏、
ほしいと思ったことないの?」
愛美が聞いてくる。
「ほしくなーい。
ほしいと思ったことも、なーい」
それは本当。
私が、あの人を勝手に好きなだけで
彼氏とか、とんでもない
愛美がため息をつく。
「もう、なんか、いいよね
悩みがないって」
は? 悩み?
あんたのおかげで、盛りだくさんだよ!
愛美は、酒井不動明王に向かって
念仏のようにのろけ話しを唱えている。
知るか、そんなこと、
誰が聞きたい??
私は、自分の背後から聞こえる愛美の声に
聞き耳を立てるのをやめた。
勝手にすればいい。
あの人が、教室に入ってくる。
いつもの朝
私は、心の中だけで、挨拶をする。
『おはよー』って。
大希くんが登校してきたのに
愛美はまだ、酒井地蔵に向かって念仏を唱えてる。
来たことに、気づいてないのかな?
あの人は、私と紗里奈にからかわれて
ふてくされた一樹を構っている。
ほぼ、いつも通りの朝
だけどたった今、気づいたことがある。
あの人は、この酒井地蔵の輪に、入らない。