「おはよう!」

私は毎朝、元気に登校している。

松永はうれしそうに振り返って

「おー」

って、言う。
酒井くんも、にこにこしてる。

私は松永と、くだらない話しで盛り上がる。
紗里奈も入って来て
どうでもいい話しをする。

楽しい。

昼休み、高く跳ね上がったボールが、空に舞い上がって、
それをあの人が追いかけるのを、遠くから見ている。

私の気持ちは、変わらない。

よくよく考えてみれば
あの人に彼女がいようと、いまいと
私には、関係のないことだった。

手を伸ばしても届かないところにいる人に
私の存在自体、意味はない。

「あたらしいコンビニアイス、
 もう食べた?」

校舎の窓から、
大希くんを眺めていた私に
松永は声をかけてくる。

「えー、そんなの、出てたの?」

「え、知らない?」

「南国魅惑のアップルパインマンゴーってやつ?」

「それそれ」

紗里奈と私は、松永の話しにのっかって
それなりに盛り上がる。

「学校終わったら、
 一緒に食べにいかない?」

松永の誘いに、私はちょっと、立ち止まる。

「わー、いいよ、
ねぇ、みなみも、一緒に行くでしょ?」

「うん」

そうか、松永は、紗里奈のことが、好きなんだな。
だから、こうやって一生懸命
話しかけてくるんだ。

紗里奈と楽しそうに話す、松永を見ながら
私は、なんとなくうれしくなる。

仕方がない、つき合ってやろう。

放課後、
学校から一番近いコンビニに行ったら
あの人と愛美もいた。

「きゃー、酒井くんも、
アイス食べに来たの?」

宇宙人きららは、酒井地蔵さまを宇宙人扱いする。
一樹も、酒井地蔵に容赦ない。

「って、普通に定番チョコとか食うなよ
 ここは、季節限定選んどけよ」

「いいじゃない、なに食べたって、
 あんたには、関係ないでしょー」

きららと一樹は、相変わらすうるさい。
そんな二人を、あの人と愛美は
笑って見てる。

この二人、つき合ってるのにな

いくら仲がいいからって、友達だからって、
できたてほやほやカップルの間に
よく混ざって、平気でいられるよな。

きららと一樹

つき合ってもないのに

「横山さんは、何を食べてるの?」

突然のその声に、ドキっとする。
多分話しかけてきてくれるって、
そうなるって、分かっていても、
本心ではそうしてほしいと、切に願っていても、
やっぱり聞いた瞬間、ドキっとする。

この人の声を、間近に聞けるのは
本当に久しぶり。

「えっと、南国魅惑のアップルパインマンゴー」

「あ、やっぱり? 俺も」

本当は、アイスはバニラしか好きじゃないんだけど
松永の進言に従っておいて、よかった。

「うまいよね」

「うん、おいしい」

この人が、おいしそうに食べるから、
私のアイスの味も、3割増し。

「でもさ、アップルパインマンゴーって、
 結局、何味だよって、かんじじゃね?」

この場合、人気の味覚3種を混ぜた企業の商品戦略で
なおかつ、アップルマンゴーという
日本人になじみの深い品種との誤解を避けた
ネーミングであるということは
今の私の立場として、この人に伝えるべき
誠意ある対応として、必要……では、ない。

「おいしいから、なんでもいいけどね」

そう言ったら、この人は
ちょっと驚いたような顔をして、
それから、おかしそうに笑った。

「ふふ、なんかやっと、
ふつうに話せるようになったね」

あの人は、笑う。

私の気持ちは、変わらない。