いつもは、高慢でうるさい高梨愛美が
今は静かだ。
自分のしでかした行動に、後が引けずに、
さすがに緊張しているらしい。

それを悪だくみを知っているのは、
この世界に4人だけ。

きららは、愛美の側にいながら
愛美の緊張に気づかないふりをして
周囲と普通に接している。
私には、それがなんだか、無性に腹が立って
仕方がない。

「あー、早くうちに帰って
 ちゃんとしたお風呂に入りたーい」

「わかるー」

女同士の会話は、いつだって本音をださない。
妙に浮き足立ってる
キャンプファイヤー直前の、待機時間。

組み上げた薪に、火が灯された。
燃えさかる炎を囲んで
山の神さまの話が、延々と続く。

山の神さまは、こんな私を、
助けたり、してくれないのかな

幻想的で、不思議な神さまの話が終わったら
歌を歌って、火の始末の係り以外は、ロッジに帰る。

火を取り囲む人の輪が崩れたその時、愛美が動いた。
大希くんに声をかけ、2人で森の奥に消えていく。

私には、為す術がない。
全くない、何もない。

二人の消える足音を背後に感じながら
心の中で、泣いている。
このまま、ロッジには……

やっぱり、帰れない!

「ごめん、紗里奈、ちょっと、
 トイレに行ってくる」

「え?」

驚いた紗里奈を置き去りにして
私は、2人の後を追った。

「ちょ、みなみ?」

2人が分け入った木立の中に駆け込む。
真っ暗な森の中、
再点灯された、わずかな外灯だけが頼りだ。

「高梨さん! 高梨さん!」

私は、あらん限りの大声で叫ぶ。

「愛美ちゃん! 愛美!」

暗闇の中を、全力で駆け回る。
どこを探しても、見当たらない。

「あぶないよ、愛美!
森の奥に、勝手に入って行っちゃ!」

なんの目印がなくても、
あの人の、いる場所になら
本能でたどり着けそうな気がする。

「どこ? どこにいるの!」

木の根につまずき、足を滑らせる。
それでも、あきらめるわけにはいかない。

「川本くん!」

「みなみ!」

藪の中から、飛び出てきたのは
紗里奈と松永。

呆然と座り込む私に、
紗里奈が大きな息を吐く。

「みなみ、見つかって……
……よかった……」

どれぐらい一人で走り回っていたのだろう。
気づけば、私は泣いていた。
なぜだか分からないけど、
涙が後から後からあふれてきて
止まらない。

紗里奈の、私を見下ろす顔が
痛々しくて、なんだかかわいそうな感じ。

「そっか、ゴメン、気づかなかった。
みなみは、川本くんのことが
 好きだったんだね」

一緒に着いてきてくれた松永が、ため息をつく。

「あぁ、そっか。そうか、あぁ……、
そういうことね」

松永は、その場に座り込んで、
凄い勢いで頭を掻いている。

私は、立ち上がろうとしても、どうしても立てなくて、
紗里奈は、そんな私の隣に座った。

「落ち着いたら、帰ろう」

しばらくしてロッジに戻ると、
そこにはなぜだか、きららと酒井くんが待っていて
酒井くんが、黙ってうなずいたから
なんだかよく分からないけど、妙に安心した。

「あれ? みなみちゃん、どうしたの?」

宇宙人きららは、相変わらずの宇宙人で
だけど、それに今は、救われる。

「ううん、なんでもない」

私は、それだけを言って
ロッジに戻った。

紗里奈には、すぐに謝っておいたけど
松永くんと酒井くんには
言いそびれちゃったな。

夜の山道を、1人で徘徊したことに
先生たちにもバレないように
うまく立ち回ってくれた。

本当に、いけない事だったんだよね

愛美は、何事もなかったかのように
普通に周囲に溶け込んで
布団に入って、寝た。

私も、寝た。