キャンプ2日目、今日がメイン
この日は朝食後、ウォークラリーとかいう名の
強制歩行訓練があって
その後は、定番の野外炊飯カレー
山道を歩き回った後での、サバイバルな食事って
どんな遭難訓練なんだろう
「ねぇ、みなみ、楽しんでる?」
紗里奈が聞いてくる。
夏の緑が、猛烈な勢いで攻めてくる
蒸し暑い朝の散歩道
「え? 楽しいよ?」
「そ、そう?」
紗里奈が困ってる。
多分、私の顔が怖いからだ。
しかし、そんなことに構っている場合ではない。
あの人に、高梨愛美がまとわりついてる。
誘うなら、絶対、今日
山に鳴く鳥の声も、山の緑のまぶしさも
川のせせらぎも、全てがかき消される。
大希くんと、愛美の近すぎる距離のせいで
ていねいに舗装された山道で
あの人の隣を歩く愛美の
その手があの腕に触れるたび
彼女がそっと何かを耳打ちするたびに
胸の鼓動が早くなる
普通でなんて、いられない
飯ごう炊飯の班分けは
私と紗里奈が食材を切る係で
愛美ときららが、水汲みと皿並べ
一番女子力をアピールできるカレー作りは、
もちろん愛美の仕事
男子は、かまどを作って
米を炊いている。
今は、二人の接触は、ない。
きららが、野菜を切っている私と紗里奈に
ふと近寄ってきた。
「ふふ、みなみちゃんは、
愛美と大希くんのことが
気になって仕方ないんだね」
「え?」
「だって、さっきから、ずっと見てる」
それだけを言い捨てて、逃げてったきららの背中
私のそのムッとした瞬間を、紗里奈は見逃さない。
「そんなんじゃ、ないよねぇ
だって、みなみは川本くんのこと
どっちかっていうと、嫌いだし」
紗里奈は、私に気を使ってくれている。
「高梨さんの、好みがみなみには理解できないし
告白するっていう行動の過程に、興味があるだけだよねぇ」
「恋愛なんて、興味ないし」
自分が、どうあがいたって出来ないことに
興味なんて持てない。
「なにが面白いのか、さっぱり分かんない」
走るのが苦手な人間に、トップランナーになれなんて、
誰も言わない。
絵を書くのがヘタな人間に、画家になろうなんて
誰も望まない。
あの人とうまくしゃべれない私に
恋なんて、出来ない。
「みなみって、そうだよね」
「うん」
私は、黙って人参に包丁の刃を突きたてる。
あんまり早くカレーが出来てしまったら、
余計な自由時間が、出来ちゃうな。
そしたら、その間中、私は悶々として、
愛美には、チャンスをうかがう余裕が出来る。
何とか時間を余すまいと
そんな願いも空しく、
ごくごく順調に、カレーは出来上がった。
「普通に、うまいよね」
私の切ったジャガイモを
大希くんが食べる。
そのこと自体が、うれしいはずなのに、
今日は、全然うれしくない。
後片付け
汚れた食器を受け取って
女子は皿洗い、男子はかまどを片付ける。
残った薪を、あの人が一人で持ちあげて
歩き出したその瞬間、
愛美が、手にしていた食器を放り出した。
背中から漂う、異様な緊張感
あの人に駆け寄った愛美は
とんでもなく不細工な顔で
あの人を見上げる。
あの人は、ちょっと驚いた顔をして
それでも、愛美のために少し背をかがめて
彼女のためだけに、その耳を傾ける。
赤らんだ頬で、互いに見つめ合い
小さくうなずきあってから
秘密を共有しあった二人は
磁石が反発するかのように
ぱっと離れた。
駆けもどった愛美に
きららが声をかける。
「うまくいった?」
「とりあえず、OKもらった」
「いよいよだね」
「うん」
愛美の、革命が始まる。
この日は朝食後、ウォークラリーとかいう名の
強制歩行訓練があって
その後は、定番の野外炊飯カレー
山道を歩き回った後での、サバイバルな食事って
どんな遭難訓練なんだろう
「ねぇ、みなみ、楽しんでる?」
紗里奈が聞いてくる。
夏の緑が、猛烈な勢いで攻めてくる
蒸し暑い朝の散歩道
「え? 楽しいよ?」
「そ、そう?」
紗里奈が困ってる。
多分、私の顔が怖いからだ。
しかし、そんなことに構っている場合ではない。
あの人に、高梨愛美がまとわりついてる。
誘うなら、絶対、今日
山に鳴く鳥の声も、山の緑のまぶしさも
川のせせらぎも、全てがかき消される。
大希くんと、愛美の近すぎる距離のせいで
ていねいに舗装された山道で
あの人の隣を歩く愛美の
その手があの腕に触れるたび
彼女がそっと何かを耳打ちするたびに
胸の鼓動が早くなる
普通でなんて、いられない
飯ごう炊飯の班分けは
私と紗里奈が食材を切る係で
愛美ときららが、水汲みと皿並べ
一番女子力をアピールできるカレー作りは、
もちろん愛美の仕事
男子は、かまどを作って
米を炊いている。
今は、二人の接触は、ない。
きららが、野菜を切っている私と紗里奈に
ふと近寄ってきた。
「ふふ、みなみちゃんは、
愛美と大希くんのことが
気になって仕方ないんだね」
「え?」
「だって、さっきから、ずっと見てる」
それだけを言い捨てて、逃げてったきららの背中
私のそのムッとした瞬間を、紗里奈は見逃さない。
「そんなんじゃ、ないよねぇ
だって、みなみは川本くんのこと
どっちかっていうと、嫌いだし」
紗里奈は、私に気を使ってくれている。
「高梨さんの、好みがみなみには理解できないし
告白するっていう行動の過程に、興味があるだけだよねぇ」
「恋愛なんて、興味ないし」
自分が、どうあがいたって出来ないことに
興味なんて持てない。
「なにが面白いのか、さっぱり分かんない」
走るのが苦手な人間に、トップランナーになれなんて、
誰も言わない。
絵を書くのがヘタな人間に、画家になろうなんて
誰も望まない。
あの人とうまくしゃべれない私に
恋なんて、出来ない。
「みなみって、そうだよね」
「うん」
私は、黙って人参に包丁の刃を突きたてる。
あんまり早くカレーが出来てしまったら、
余計な自由時間が、出来ちゃうな。
そしたら、その間中、私は悶々として、
愛美には、チャンスをうかがう余裕が出来る。
何とか時間を余すまいと
そんな願いも空しく、
ごくごく順調に、カレーは出来上がった。
「普通に、うまいよね」
私の切ったジャガイモを
大希くんが食べる。
そのこと自体が、うれしいはずなのに、
今日は、全然うれしくない。
後片付け
汚れた食器を受け取って
女子は皿洗い、男子はかまどを片付ける。
残った薪を、あの人が一人で持ちあげて
歩き出したその瞬間、
愛美が、手にしていた食器を放り出した。
背中から漂う、異様な緊張感
あの人に駆け寄った愛美は
とんでもなく不細工な顔で
あの人を見上げる。
あの人は、ちょっと驚いた顔をして
それでも、愛美のために少し背をかがめて
彼女のためだけに、その耳を傾ける。
赤らんだ頬で、互いに見つめ合い
小さくうなずきあってから
秘密を共有しあった二人は
磁石が反発するかのように
ぱっと離れた。
駆けもどった愛美に
きららが声をかける。
「うまくいった?」
「とりあえず、OKもらった」
「いよいよだね」
「うん」
愛美の、革命が始まる。