夏レク野外キャンプ、当日の朝が来た。
そんな日は、永遠にこなくていいと思っていても
必ずやって来てしまう。
時間には逆らえない。

学校ジャージの肩に
背負う荷物が重い。

ふらふらとした重い足取りで歩き続ける私の前に
今は地獄への入り口とも思える校門が見えてきた。

「そんなに重いなら、持ってあげようか?」

ふいに肩が軽くなって、でもその声に、
余計な心拍数と血圧を急上昇させながら、振り返る。

「だ、大丈夫だから」

「ホントに?」

私の、なによりも大切なこの人が、笑う。

「自分の荷物は、自分で持たないと」

スポーツバッグの、
大希くんの触れた肩ベルトの部分は、
私には光って見えるのに

「天気がよくて、よかったね」

「うん」

なんとなく、並んで歩き始めたこの人は
キャンプ後には、別の人になってしまうのだろうか

「あー、でも、その間、
 テレビが見れないのはつらいなー
 村瀬の試合があるんだよ、村瀬の!」

なんの話しをしているのか分からないけど、
聞いているふりをする。

もうこの人と、こんなふうに
普通にしゃべるのも、許されなくなるのかな

「おっはよぉ! みなみちゃん!」

校庭にはいると、宇宙人きららが駆け寄ってくる。
紗里奈は、保健係の幹部職についたらしくて
ここにはいない。

「やだやだ、みなみちゃんったら、
 今日のほっぺも、やわらかぁ~い!」

きららは、私の頬の皮質が、気に入ったらしい。
両方の手の平で、私の顔を挟んで
むにむにとこねくり回す。

「ね、大希くんも、触ってみる?」

「あほか」

遠くで愛美が手を振った。

「おーい、班長は、集合だって!」

「あぁ、ちょっと行ってくるね」

あの人が去って行く。
愛美のところへ。

「ふふ、愛美、うまくいくといいね」

「……」

優秀な従者松永と、酒井大明神もやってきた。

「あのさ、美化係の用具点検
 先に済ませといたから」

「ありがとう」

「ねぇねぇ、バスで歌う
 カラオケの曲、決めてきた?」

きらら、お前は何を言ってるんだ?

「もー、昨日の夜から
 テンションマックスでさぁ!」

宇宙人きららは、本当にうるさい。

「松永くんって、料理とか出来る?
 飯ごう炊飯とか
 普段から、キャンプ行ってる派?」

班長と、副班長だけが集められている。
その中に、あの人と愛美が並んで立っていて
時々、何かを耳打ちしあう。

「もー、みなみちゃんったら、
 ちゃんと人の話し、聞いてる?」

聞いてない。聞いてないけど
もう、あの2人を目で追うのはやめよう。

愛美の勝算は五分五分、
なにがどうなるのか、分からない結果に悩まされながら、
この3日間を過ごしたくない。

「きららちゃんは、いつも元気だね」

「あー! 名前で呼んだー!」

笑顔を作ってみたら、きららは私に抱きついた。
うっとうしいけど、今は、こいつでよかったのかもしれない。
紗里奈とだったら、深刻なままだったかもしれない。

私も、バカになろう。

「キャンプ、楽しみだね」

「でっしょぉお~! やったー!!」

きららが喜ぶから、私も喜ぶ。
松永は、それを見て安心したように笑った。