高校一年、一学期の期末テストが終わった。
学籍番号順に座っていた席から
本来の自分の席へと移動する。

開放感と、舞い戻る痛い緊張感

大希くんのすぐ隣を横切って
自分の席に戻る。

「あー、難しかったなー
 ねぇ、あの数学の最後の問題
 出来た?」

この人は、一樹としゃべってる。

「わっかんねーよ、
 酒井のノートの問題のさぁ……」

聞き耳を立てるのが楽ちんなのは
実にありがたい。

「ねぇ、横山さん」

ふいに一樹は、私に声をかけた。

「また、次回もよろしくね」

なるほど、次につなげるとは、こういうことか
こうしてつかんだ1本の細い糸を
大切に維持し続ければ
少なくともテスト前には
この人と親しく話すきっかけが残せる。

「覚えておきます」

しばしの沈黙

その直後で、一樹とこの人が笑っている。
私、何か面白いこと言った?

「でさ、横山さんは、
 その酒井のノート、役にたったの?」

「うん、酒井くんって、やっぱりすごいね」

「だよねー」

酒井大明神、ありがとう、
あなたのおかげで、この人が私に
蓬莱に咲く、蓮の花のような笑顔を向けてくれている。

「ねぇ、もしかしてさぁ、
あの時、俺たちを勉強に誘ったのって……」

振り返ったこの人が、私に何かを言いかけた時、
宿敵高梨愛美と、きららが乱入してきた。

「この後のホームルームの予定聞いた?」
また同じ班になろーよー」

高梨愛美が甘えた声を出す。
むかつくけど、ここは下手に突っ込まない。
様子をうかがいつつ、出方を見極める。

「またお前らとかぁ?」

一樹が天井を見上げた。

「あ、ねーさー。横山さんも、
 また同じ班になろうよ」

きららが、私にそう言って、教室の隅を指さす。

「酒井くんと、松永くんも誘ってさ」

「おぉ! それはいいアイデアだ」

あの人が、手を打った。私を見て
首を一番かっこよく見える
絶妙な角度に傾ける。

「ねぇ、ダメ?」

「とてもいいアイデアですね」

私の目の奥が、キラリと光る。
うん、実にいいアイデアだ。

「えー、マジかよー
また同じメンバー?」

一樹は一人で勝手にブツブツ文句を言って引いているが、
任せろ、私もお前の言動には
常日頃から引いている。

「じゃ、そういうことで」

ふふ、これはいい流れだ。
次へと繋ぐ、大きな太い糸だ。

「やったー」

きららが、なぜか喜んでる。
コイツは、まぁ、生きてる世界基準が
私と違うから、利害はぶつからない。

肝心のこの人は……
にこにこしてるから、
いいや。

私が、この人の笑顔を勝手に堪能していると
ふいに高梨愛美が声をかけてきた。

「ねぇ、横山さんってさ、
 なにか楽しみとか、趣味とかあるの?」

どうした、なぜ今、私にそんなことを聞く

「え? なんで?」

わざと無防備なすっとぼけた顔をして、返事をしておく。

「いや、別に」

「いいじゃない、俺は、
 横山さんのキャラ、嫌いじゃないけどね」

でた! この人の悩殺ボイス!!
これはきっと、テスト勉強対策に奔走した私への、
本物の神さまからのご褒美にちがいない!

「私だって、横山さんのこと、
別に嫌いなわけじゃないよぉ」

宿敵愛美の、この人に甘えるそんなすねた仕草も
今なら全て許せるんだ。

「お前だって、酒井のノート、
 助かっただろ?」

この人の天使のほほえみ
それが、そのままこっちへ向く。

「じゃあ、夏レクキャンプも
 よろしくね」

テストが明けたら、
校外キャンプが、待っている。