「それってさぁ…。」


私の言葉を聞き終えた瑞穂がゆっくりと口を開いた。


「そうやって傷付く事から逃げてるだけなんだよ。そりゃ気持ちは分かるよ？今までの事を知っている分、頑張れなんてとても言えないけど…。」


瑞穂の言う通り、私は逃げていた。

今も逃げ続けている。

傷付くことを何より恐れてるって、自分でも分かってるけど―…


「相葉先生にとって、離婚した事が悲しい思い出として記憶に残っていたとしても、未だに引きずっている訳じゃないかもしれないじゃない。」


「そうだけど…。」


確かにそうかもしれないけれど、先生の本心なんて私には分からない。

それに…


「また相葉先生にフラれたりするのは嫌だよ…。」


「確かにそうだれど、せっかく会えたのに、好きになったまま自然と終わっていくのは…本当にそれでいいのかなって気がする…。」


そんな瑞穂の一言に、私は何も返せなかった。



私は…


私には―…



「私もさくに傷付いて欲しくないよ。だけど、すごく大切に想う人にもう一度会えたんだから、その縁をなかった事にして欲しくないだけなの。」


黙りこくっていた私に、瑞穂はそう付け加えた。



「さくにも、幸せになって欲しいって思ってるよ？」

「ありがとう…。」


瑞穂の気持ちはすごく、すごく伝わっていたから、心から“ありがとう”って言葉を口にしていた。



「だから余計な事ばかりウジウジ考えないで、自分が納得出来る３ヶ月間になる様に頑張りなさい！私が言えるのはそれだけ！」


「…はい。」


照れ隠しの“肝っ玉母さん”的な瑞穂の言葉に、私が少しだけ笑いながら答えた後、電話は終了した。



電話を切ってから、瑞穂の言った言葉を何度も心の中で思い返してみる。

その度に、傷つく事への不安と先生を想う気持ちが交錯していた。


確かに私は余計な事ばかり考え過ぎているのかもしれないけれど、その１歩を踏み出すには勇気が必要だし、怖くてたまらなかったから。


『ねぇ、私はどうしたらいい？
どうしたらいいのかな―…』


そんな問い掛けを、何度も、何度も心の中で繰り返していた。