「でもまさか、河原が来るなんて思ってもいなかったよ。」


相葉先生が私の名刺を手に取って、ニコニコしながら話しかけてきた。



「そうですよね、私も想像もしていませんでした。」


なんだか恥ずかしくて、真っ直ぐに相葉先生の顔を見る事が出来ず、キョロキョロと視線を移しながら答えた。



「河原…?」

未だ記憶を辿っている教頭先生は、


「ほら、覚えていませんか?検定で有名だった生徒がいたでしょう。」


「あぁ…いたかもしれないなぁ…。」


本当に覚えているのかどうか、とっても怪しげな返事を相葉先生にしている教頭先生に、


「私、1年生の頃しか先生に教わっていなかったので、あまり印象に残っていないかもしれませんね。」


そんな風に答えると、


「そうかぁ、1年生の頃かぁ。」


“それじゃあ仕方がない”とでも言うように、教頭先生は頷いた。



「河原先生、特に悪い事はしていなかったようだね。」

教室長に、笑いながら冗談ぽくからかわれて、


「私、悪くないです。至って普通でしたよ。」


わざと拗ねたように答えた私を見て、他の先生方もクスクスと笑った。

すると、私達の会話を聞いていた相葉先生が、


「河原はいつも真っ直ぐで、一生懸命な生徒でした。」

教室長に向かってそう言った。


それを聞いて、私は照れ臭さとと同時に、


『私の場合、良くも悪くもそうとしか言えないかも…。』

そんな風に思いながら、


「それって、特別褒めるところのない子に言う言葉ですよね?」

そう、相葉先生に返すと、


「そんな事ないよ!」

相葉先生は笑いながら私が言った言葉を否定した。

すると、


「今でもそうですよ。冷静且つ、熱い講師ですから。」

そんな椎名先生の一言で、


「へぇー…。」

一気にみんなの視線が私に集中した。


ぐるりと全員の顔を見渡した私は、


「やめて下さい…。」

そう言って、恥ずかしさの余りに俯いた。



そして―…


その後も談笑は続き、予定している大まかな授業内容の説明を受けながら、穏やかに時間が過ぎていった。