『相葉先生に会うんだ…。』


そればかりが、頭の中でグルグルと渦巻いているようだった。




母校に近付くにつれ、私は懐かしい景色を車の窓ガラス越しに眺めていた。


高校へと続く道の両脇に高く伸びている街路樹は、まだ青々とした葉をつけていたけれど、きっとすぐに秋がやってくるのだろう。


そんな事を感じながら、懐かしい景色が懐かしい場所へと近付く程、胸の鼓動は大きくなるばかりだった。




「ここを曲がるのかい?」


ふいに運転をしていた教室長から訊ねられ、


「はいっ、そこを右に曲がってすぐです。」


若干慌てた私が答えた通りに車が曲がると、すぐに校舎が見えてきた。


青い葉を繁らせている桜並木を通り過ぎながら学校の敷地に入ると、来客用の駐車場にゆっくりと車を止めた。



「女子校に入るなんて生まれて初めてだなぁ。」

「実は私もなんですよ。」


そんな教室長と椎名先生の暢気な会話はそっちのけで、

私の心臓のドキドキは、最高潮に達していた。


黙っていても顔が高潮していくのが分かった。



『落ち着け…。』

心の中で何度も呟きながら、私は深呼吸を繰り返した。



「…河原?行くわよ。」


先に車を降りていた椎名先生に呼ばれ、私も慌てて車を降りると、

教室長と椎名先生の後に続いて校舎に向かった。




『落ち着け…落ち着け…。』


歩きながら、何度も、何度も、心の中で繰り返す。



ドキン…


ドキン…


ドキン…



教室長が入り口のドアを開けた時、とてつもなく逃げ出したい気持ちになった。