「前に勤めていた学校の生徒とデキてて妊娠させたって噂、本当なのかなぁ?」


自分の車に乗り込もうとしている相葉先生を見ながら瑞穂が言った。


相葉先生にまつわるスキャンダラスな噂を、この学校の生徒で知らない人なんていないと思う。


普通に考えれば、

『そんな事件を起こした人を、学校側が雇うわけがない。』

そう思うのだけれど、私達にはこの噂が本当に起こった出来事のように思えていた。


“半信半疑”というのが正解かもしれない。


数少ない20〜30代の先生達は若手の部類に入り、当然のように女子生徒から人気があったけれど、


この噂ゆえに『女子校』という環境であっても、私が相葉先生の事を恋愛対象として見る事は絶対に無いと思っていた。


むしろ、


『相葉という人は、女心を弄ぶヒドイ男だ。』


そんな勝手な嫌悪感すら抱いていたほど。


私が冷ややかな視線で駐車場にいる相葉先生を見下ろしていると、



キーンコーンカーンコーン…


校内にチャイムが鳴り響いた。


今日は始業式。


明日からは、また勉強の日々が始まるんだ。


「ドーナツでも食べて帰ろ。」

「おっ、いいねぇ!」


教室から相葉先生を見送った後、梢の一言をきっかけにして私達も学校を後にした。