『担当は相葉先生』


その言葉だけが、頭の中を物凄いスピードでグルグルと回っているようだ。



「…大丈夫?そんなに驚くとは思わなかったわ。」


その一言で私が慌てて顔を上げると、不安そうに私を見つめる椎名先生と、ずっと黙って話を聞いていた教室長が視界に入った。


「すみません、余りにも驚いてしまって…大丈夫です。」


そう言って、何事も無かったかのように、ハハッと笑った。



『相葉先生は今でも母校にいる。しかも、一緒に仕事をする事になる…。』


本当は私の頭の中はパニック状態だったけれど、何とか冷静さを取り戻そうと、


「相葉先生は知っています。私が通っていた時にもいましたから。」


そう、冷静な自分を装って微笑んだ。


その冷静さの裏では、本当にどうしようも無い程取り乱していたのに、椎名先生は特に疑問を感じなかったのだろう。


「そう!それなら尚更あなたが適任だと思うわ。生徒さんから見ても“少しお姉さんな先輩”って感じだろうし。」

と、嬉しそうに笑った。


「生徒さんから見れば、私は十分“オバサン”ですよ、きっと。」


「そうかもしれないけれど、他の講師が行くよりは随分年が近いと思うわよ?」


そう、椎名先生が笑いながら言った後、それまでずっと黙っていた教室長が口を開いた。


「何とか3ヶ月間行ってもらえないだろうか。もちろん、こちらの住宅を引き払ったりしなくていいから。引き受けてくれるかい?」


教室長からの依頼に、私の表情はほんの一瞬だけ真顔に戻った。


相葉先生に会うのが無性に怖かったから。


『出来る事なら会いたくない』


これが私の本音だった。