「今度の講習場所はあなたの地元で、しかも母校。年齢的にも担当する社員はあなたが一番ふさわしいと思うの。」



ドクン、ドクン…



より一層大きく、心臓が音を立てているのが分かった。




だってその母校には、今でも相葉先生がいるかもしれないのだから。


その事を思えば思う程、胸の痛みや苦しさを感じた。




同時に、私の脳裏には相葉先生の結婚式の日に見た、海の光景が浮かび上がった。



沢山の雪が、海に吸い込まれていく様子。


雪に埋もれた手を真っ赤にして、泣きながら見た景色。




『怖い―…』



沢山の記憶や感情が体中を駆け巡り、私は相葉先生に再会する事を“怖い”と感じた。


深く、深く、相葉先生を想い続けたこと。


想いを止められなかったのと同時に、沢山傷ついたこと。


死にたいと本気で思ったこと―…



その全てが、胸いっぱいに広がっていった。




椎名先生は、押し黙っている私が感じているらしい、何らかの不安を取り除こうと思ったのだろう。


「2人いるパソコンの先生の内、あなたと一緒に授業を担当していく先生は…。」


そう言って、おもむろに手にしていた資料をペラペラとめくり始めた。



「えーっと…担当は相葉大樹先生ですって。あなた、知ってる?」



椎名先生のその一言で、私はソファに座っているにも関わらず、足元の床が無くなった様な、地面がグラリと揺れたような、そんな感覚に見舞われた。


それは突然の眩暈で、片手をソファについて体を支える程だった。