「ただいまー。」


会社や仕事での疲労感を感じながらリビングのドアを開けると、


「お姉ちゃんお帰り。」


そう声をかけてきたのは、妹の芽衣だった。



芽衣は高校3年生。


私が通っていた高校と、同じ学校に通っている。


帰ってきたばかりだったのか、芽衣は制服を着たまま、ソファに座ってお菓子を食べていた。



「芽衣、着替えないの?なんでもすぐこぼすから、制服汚しちゃうんじゃない?」


そう言ってクスクス笑いながら、私はリビングとつながっている隣の部屋で部屋着に着替えた。


「大丈夫!私もすぐ着替えるもん。」


ジュースをごくごく飲んでいる芽衣に、


「あっそ。」


着替え終わった私はリビングに戻ると、芽衣がつまんでいたお菓子を一つ口に入れた。


口の中にお菓子の甘さが広がっていく。


疲れた体に染み渡っていくようだった。



「あ、お姉ちゃん知ってる!?」


すごく驚いた表情で私に聞いてきた芽衣に、


「ん?なぁに?」


笑顔で答えた私は芽衣の表情を見て、


『何かすごく驚くような、面白い事があったのかな。』


そんな風にわくわくしていた。




「あのね…。」


「うん?」



私がもう一つ、お菓子を口の中に放り込むと、



「相葉先生、結婚するんだって!大崎先生と!」


そう言った芽衣は、とっても嬉しそうに明るく笑った。



「え…?」


芽衣が言った事が理解出来ないまま、私の目の前が真っ暗になっていく。


目の前の景色が歪んだように思えたのは、眩暈を起こしそうになっていたからかもしれない。



『どういうこと?何言ってるの…?』


そう思えば思う程、心身の全機能が停止していくような感覚があったけれど、



「…えっ?本当に?」


そう言って、自分の心の変化を悟られないように驚きの表情を浮かべた。


私には、そうやって平静を保つのが精一杯だった。