私は、全身全霊、そして細心の注意を払いながら、
ゆっくり、ゆっくりと
じわじわ、
丈斗くんから離れる。
焦らず、起こさないように。
慌てず、臭われないように。
腕に乗っている頭を少しずつずらし、距離をあける。
5センチ、、、
10センチ、、、
15センチ、、、
よし、ここまで来れば大丈ぶーーーー!?。
突如、私の体が動いた。
そして、あろうことか、丈斗くんの胸もとに密着する。
「ーーーーーーっ!!!?」
今日、二度目の声にならない悲鳴だった。
私は、私の頭が乗っている丈斗くんの腕の存在を忘れていた。
その腕で、ぐいと、彼のもとまで引き寄せられたのだ。
近い。
さっきより近い。
というか、これは抱きしめられている。
丈斗くんの腕は私のうなじを回り、肩には手が置かれている。
出る!
心臓が出る!
ドドドドドド!!!
まるで、アメリカバイソンの群れの足音みたいな、心臓の音がしている。
私の寿命は、今、確実に縮んでいる。
とにかく、まずは、落ち着こう。
なにか、別のことを考えよう。
というか、ですね。
そもそも、どうしてこうなったんだ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、話は今日の朝から始めようか。
私は携帯のアラームで普通に起きた。
いつも通りに、知らない間に何回かスヌーズが作動していたようだ。
そもそも、一度では私は起きないと、私は知っている。
そんなわけで、寝癖もちゃもちゃの状態で、ベッドから抜け出す。
のそのそと、部屋を出て、家族に挨拶し、朝食を食べる。
いたって普通の朝だ。
テレビのエンタメ情報を片目に、食パンをかじり、スープをすする。
両親が「今日は忙しくなりそうだ」みたいなことを言っていたが、聞き流した。
寝癖を直し、身だしなみを整える。
鏡の前で、色々な方向から見るが、大丈夫そうだ。
派手でも地味でもない。
だからこそ、個性の薄い存在。
通りすがりの女子高生Cくらいの役柄がピッタリだろう。
よくも、わるくも、中の中。
自分的には中の上くらいの可愛さがあると思うけど。
私の影の努力とかも考えると、そこまで必死でもないし、ノーマルで妥当なラインだと思う。
そんなノーマルな私にも、ノーマルなりに気になっている人がいて、
それが、椎名 丈斗くん。
学校の女子が騒ぐランキングでは上位ではないけど、
誰に聞いても10位には入ってくるような、
私からしたら、手の届かない存在だ。
ランキングはさておき、丈斗くんは格好良すぎなくて格好いい。
ナチュラルなイケメンなのだ。
自分の価値を理解した上で、
それ以上にもしないけど、
でも、台無しにはしない。
つまり、親しみやすいイケメン。
王子様タイプではない。
本屋のお兄さんタイプなのだ。
部活は定番のサッカーでも、野球でも、バスケでもなく、バドミントン。
なんだろう、この上手くはずしてくる感じ。
そういうのを諸々に含めて気になっていて、
学校でたまに見つけるとテンションが上がるほど好きなのだ。
身だしなみを確認して、家から出る。
「おはーっす」
「はよー」
「うひあはー」
紅音と檸檬が、ちょうど家の前にいた。
亜乙女 紅音『あおとめ あかね』
山吹 檸檬『やまぶき れもん』
ちなみに、
紅音は熱血タイプの部活っ子。
檸檬は電波タイプの不思議ちゃん。
このグループでまともなのは、
お姉さんタイプのしっかり者の私ぐらいだ。
「ね、ねぇ、紅音ちゃん。 また、あおちゃんが一人でなんか言ってるよ。 怖い・・・」
「怖がるな檸檬。 私たちだけは最後まで友達でいるって決めたでしょ?」
「うん。そう、そうだね。 誰が見捨てたって、檸檬たちはあおちゃんの味方だよ!」
おい。私のキャラクターよ。
「あと、朝の挨拶、『うひあは』って言ってたよ。 絵本に出てくる猫を食べようとする化け物の名前を、朝から言う普通?」
「普通っていう定規は、あおには小さすぎるんだよ」
「やめてー、私のキャラクターが誤解される!! 胸キュン系は主人公に読者がどれだけ共感できるかなんだよ!?」
もう、キーワード設定にも胸キュンって、入れちゃったんだよ!!?
「うわ、また、読者とか言ってるよ」
「ほんとに、あおちゃんは、危ない子だね」
「ごめんなさいー、ちゃんとしますー」
「うひあは、言わない?」
「言いませんー」
うぅ。
流行ると思うんだけどな、うひあは。
「なんでもいいけど、早く行こ。 遅刻する」
「うん、紅音ちゃん。 ほら、あおちゃんも行くよ。 涙を拭いて」
「ぐすっ・・・」
こうして私の胸キュンストーリーは、いやおうなしにラブコメ感が強くなっていった。
うひあは。
ダメかな……。
私たちは、自分たちを、カラーズと呼んでいる。
少しダサいけど、そこがいい。
私が、「あおい」で青色。
紅音が、「紅」で赤色。
檸檬が、「山吹」「檸檬」で黄色。
ちょうど三原色になっている。
だから、カラーズ。
「あおちゃん。 光の三原色は、赤、青、緑だよ? 檸檬をのけ者にする気だね。 戦争だね、受けてたつよ」
「ち、ちがうよ。 えーと、色! 色の三原色の方!」
「あお、色の三原色は、青、黄色、赤紫だ。 今度は、私をハミろうとしてるの?」
「え、ちが!! なにこれ、うまくいかない!」
昼休み。
私たち(カラーズ)は屋上でご飯を食べていた。
わざわざ屋上までくる理由は、
私のワガママで、
中庭で食べている丈斗くんを眺められるからだ。
まぁ、たいていは、ちょっと眺めて、だいたいおしゃべりに費やしている。
私と檸檬もお弁当を、紅音は焼きそばパンを食べていた。
「それで、いつ告白するの?」
「いやいやいや! さっきまで昨日のドラマの話しだったじゃん!」
「え、だって、ドラマの話し飽きたし。 そもそも、檸檬、見てないし」
「だからって急に! っていうか、飽きたってセリフで、意外と豆腐メンタルの紅音が! あー、もうほら、こぼれてるこぼれてる!」
「で、いつ告白するの?」
「しないしない!」
「・・・。 じゃあ、次に焼きそばがこぼれたら告白するで」
「メンタルやられた上に、賭けの対象にされるなんて、かわいそうすぎる!!」