彼の名は、椎名 丈斗『しいな たけと』
私の名前は、箱崎 あおい『はこざき あおい』
丈斗くんの寝息をおでこに感じながら、
私は今、腕枕をされている。
暗くて分からないけど、私の顔は真っ赤なはず。
あおいなのに、赤。
なんて、しょうもない冗談を思いつくほど、頭の中はパニックだ。
スースーという、小さな寝息からすると、
丈斗くんはたぶん、寝てしまったのだろう。
いや、寝てくれて助かった。
これで起きていたら、私の心臓は口から飛び出していた。
いまでも、だいぶヤバいのに。
これじゃあ、ちっとも寝るどころじゃない。
こっそり、寝顔を確認する。
いつ見てもカッコいい。
というか、こんな近くで長時間見たことがない。
うらましいくらい長いまつげ、整った顔、さらさらの髪の毛。
それで、性格もいいとか、現実に存在しているというのが不思議だ。
でも、その不思議な存在は、私を温かく包みながら、存在感を示している。
そして、私は腕の中で、緊張でがちがちになりながら、限界までパニックっている。
このままだと、私の心臓の音で丈斗くんを起こしてしまいそうだ。
私は、落ち着くために深く息を吸う。
「ーーーーーっ!!!?」
声にならない悲鳴をあげる。
事実、それは、失敗だった。
私は、今、丈斗くんに包まれていた。
私が、吸い込んだ空気には、
丈斗くんの、なんていうか、男子のにおい、でも全然嫌じゃなくて、しょっぱいような、どこか落ち着くような、もっと包まれていたいような、そんな香りをたっぷり味わってしまって、
私は、丈斗くんを起こさないようにしながらも、最大まで暴れた。
携帯のバイブ機能とそっくりな感じだ。
そんなマナーモードの私に気付かず、丈斗くんは気持ち良さそうに寝ている。
「・・・・んっ」
不意に丈斗くんの口から小さな音が漏れる。
ヤバい、私のバイブ機能が目覚ましの役割を果たしてしまったのか。
今度は必死に動きを止める。
動くな、私。
ストップ、ミー。
・・・・・・・。
少しの静寂。
丈斗くんの規則正しい寝息だけを感じながら、
私は起こさなかったことに安心して、息をはいた。
そして、気付く。