何時間経っただろう、置き場のない感情に支配されたまま、もう夜になっていた。

震える手で、足元に落ちた、5本のレンゲソウを持ちふらふらした足取りで家路についた。

ゆっくりと家に向かって足を進める。

その時、肩に下げていたバッグからバイブ音が聞こえ始めた。慌てて、携帯電話をみる。

彼女からだった。

震える手が急いで電話をとる。


「もしもし、○○病院ですが、田中春樹さんですか?市川舞さんが先程、緊急搬送されてきて、親族の名前を聞いたのですが、ずっとうわごとのようにあなたの名前を呼んでいるんです。薬物多量摂取で意識が朦朧としています。今、胃洗浄をしているのですが、今すぐ来れますか?」



薬物多量摂取、意識が朦朧、胃洗浄、その言葉を理解するまでに少し時間がかかった。


行かなくては、彼女が僕を求めている。

忘れるわけがない。

忘れることなんでできない。

君が好きだから。

その前にしなくてはならない事がある。


「いきます。」


急いで電話を切り、インターネットを開く。

手元にあるこの意味を調べなければ、彼女が伝えたかった言葉を、僕への言葉を。




レンゲソウ、花言葉。
心が和らぐ、あなたと一緒なら苦痛が和らぐ。



“私もこんな風に思えればなって、そんな人現れるかな”


現れたよ。

君の苦しみも痛みも全部僕が和らげて取り除いてあげる。

何年も運動してない足を必死に動かし走って病院に向かう。