日が落ち始め、別れを告げるころ、彼女が突然、いつも眺めるだけで摘んだことのないレンゲソウを5本ほど摘み僕に手渡す。


「これ、あげる。花言葉調べるの忘れてるでしょ。私が今度教えてあげるから、調べなくていいよ。」


笑いながら彼女が言う。


「え、いいの?ありがとう。分かったよ花言葉博士。じゃあ、今日はここで、またね」


レンゲソウをもらおうと手を伸ばしたところで、彼女が手を引っ込める。

目の前には、何か言いたげで悲しそうな彼女がいた。今日の彼女は様子がおかしい。


「どうかした?」


「私ね、死ぬの。」


時が止まった。

意味がわからなかった。

まるで全身の血が動きを止めたように、頭が真っ白になった。

確かに毎日、花を摘んでは持ち帰りの繰り返しで、学校やバイトしている気配もなかった。


「どう言うこと?病気か何かなの?笑えないよ」


「病気じゃないよ。でも、その予定なの。」


意味が分からない。

呆然と立ちすくむ僕に、彼女は近づき抱きついてきた。


「私を忘れないでね。そのレンゲソウ、枯れるまでもってて。あなたといれて楽しかった。」


最後にそう行って彼女は背を向けた。

まって、そう声をかけて手を掴もうとしても、もう遅かった。

道行く小学生の冷やかしも耳の後ろで流れる川の音と同化して今は無意味なものに成り下がっている。