拓真は不安そうに愛輝を見ていたが、覚悟を決めたように大きく肯いた。


「ただし、条件がある」

 拓真は皆を見回した。


「わかったわ。おっしゃって下さい」

 杏子が肯いた。


「絶対に愛輝だと言うことが世間に分からないようにしてくれ。それが条件だ。まだ愛輝は高校生だ。このまま芸能界へ進むかは分からない。もし、本当にやりたい事が見つかった時、やり直す事が出来るように… それから、愛輝も美香ちゃんも学業に支障が無いように、高校卒業と大学進学はきちんとする事だ」


「はい」

 愛輝と美香は同時に返事をした。


「それと美香ちゃんは、インターハイが終わってからだ。ご両親には私の方から話しておくよ」


「ありがとうございます」

 美香が頭を下げてお礼を言ったが、拓真は……


「それから、九時過ぎの帰宅はダメだ。肌の露出の多いのもダメだ……」

 次から次へと条件を並べ出した。


「はいはい、責任もってお預かり致します」

 杏子が呆れたように頭を下げた。


 それまで、考え込んでいた原田が立ち上がった。


「本名を隠して、『謎の美少女』 と言うことで売り出して見てはいかがでしょう? 現実に存在するのかを謎にしてみては? 世間の興味が湧くと思いますが…」


「そうね。面白いかも」

 杏子が何かを確信した目で原田を見た。


「『ヒカリ』ってどう? 愛輝の芸名…」

 祐介が何気に呟いた。


「愛輝の輝を取って『ヒカリ』ね… 輝く… 素敵かも…」


 美香が噛みしめるように言った。


「よく解ったな」

 祐介が感心したように美香を見た。

 美香は嬉しそうに顔を赤らめた。


「さあ、決まりね。忙しくなるわよ!」

 杏子が嬉しそうな声を張り上げた。


 杏子の声と同時に応接室のドアが開き、祐介の父正人がにこにこと入って来た。


「わー 愛輝ちゃん。凄く可愛いからさ。昨日撮った写真、僕のブログに乗せていいかな?」

 正人は陽気に声を上げ、スマホを持っている。


「親父、スマホ貸して」

 祐介がスマホを取り上げ、素早く何やら操作し正人に返した。


「うぎゃ~ 祐介何した? 愛輝ちゃんが消えちゃったじゃないか!」

 正人は泣きそうな声を上げた。

「いいか親父。ここに居るのはヒカリだ。愛輝じゃない。これは秘密だ。絶対に誰にも言うなよ」

 祐介は正人に言い聞かせるように、キツイ口調で言った。


「何だかしらんが分かったよ」

 正人は渋々肯き、残念そうにスマホの画面を摩った。

 祐介と正人のやりとりに、拓真が暖かな笑みをこぼしていた。