「母さん……」


顔を上げたリョウがお母さんを呼ぶ。

すると、その呼びかけが届いたのか、お母さんの口がゆっくりと開閉された。


思い込みかもしれないけれど、確かに“リョウ”と呼んだ気がして……


「っ、」


私達の口から、声にならない嗚咽が洩れる。





「……リョウ、届いてるよ。お母さんにちゃんと届いてる」



応えることは出来ないだろうけど、リョウの声はきっと届いてる。

そう信じたい。


だから伝えよう。

お母さんに。






「母さん……長い間よく頑張ったな。お疲れ様」



まるで子供に話しかけるように優しく、ゆっくりと。

けど、確かに声は震えていて。

聞き取りやすいように必死に涙を堪えているのが分かる。


お母さんもさっきより呼吸が落ち着いている気がするのは、きっとリョウの声を聞こうと頑張っているのかもしれない。




「……俺、幸せだった。父親がいなくても、ちゃんと幸せだったよ」



お父さんと出会うまで、お母さんと二人きりだったリョウ。

幼少期はお父さんがいなくて寂しい想いもしたかもしれない。


けど、リョウの傍にはいつもお母さんがいた。

お父さんの分までお母さんが愛してくれた。


だから幸せだったんだよね。

二人でも幸せだった。