「……」
リョウ……
ドアをジッと見つめたまま動こうとしないリョウ。
ううん、違う。動けないんだ。
このドアを開ければ、受け入れたくない光景が待っているから。
私もリョウの立場だったら開けるのを躊躇っていると思う。
「……リョウ、一緒に開けよう」
そう言って、空いてる方の手をドアへ持っていけば、リョウも同じようにドアに触れ、同時にドアノブをスライドさせた。
……あれ?
覚悟を決めてドアを開けたのに、開けた先にあったのはカーテンで。
少し空いた隙間の向こうで先生と看護師さんが何か話をしていた。
「あ、先生!息子さんが来ました!」
私達に気付いた看護師さんが慌てた様子でカーテンを開ける。
「っ、」
───次の瞬間目に飛び込んできたのは、真っ白なベッドに横たわるお母さんの姿で……
お母、さん……
分かってた筈なのに、やっぱりショックだった。
私の中のお母さんはいつも穏やかに笑っていて。
“あやのちゃん”
こんな姿を目にしても、思い出すのはお母さんの優しい笑顔だけだった。