「あんたなんかに……あんたなんかに分かるわけないわ!好きな人と結婚出来ない事がどんなにツラい事か。一般人のあんたには絶対に分からない!」
「……」
「この世界に産まれた女でも恋愛結婚する人は沢山いる。
けど、私は違った。
物心ついた時から蓮見組組長の妻になれって言われてきたの。それが善浪組の娘に産まれた使命だって。そう言われながら育ってきた!」
物心、ついた時から……
“蓮見組組長の妻”
リナさんにはそれが常に付きまとっていて、それを手に入れなきゃいけないと思い込みながら生きてきたんだろう。
この世界ではよくあることだって言ってしまえばそれまでのこと。
もしそれが自分だったらと思うと……到底受け入れられそうにない。
「だから、婚約の話を受けた時は嬉しかった。
他の候補者に勝った、認められた。私が次期若頭の妻だって。
そう喜んでいたのに……っ」
そこまで言ったリナさんの視線が、おもむろにリョウへと向けられる。
その眼差しは今までの怒りなんてどこにも無くて。
ただただ泣きそうな瞳でリョウを見つめていた。