「やめさせてもいいわよ?」
その一言で、再びリナさんを見上げる。
目が合ったリナさんは愉快げに笑みを浮かべていて、この状況が愉しくて愉しくて仕方なさそう見えた。
「リョウのこと、解放してあげる」
「……」
「リョウが私と結婚してくれるのなら……ね?」
「な……っ」
けっ、こん……?
内容が内容なだけに、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
ううん、今もほとんど理解なんて出来ていない。
だって、急に結婚だなんて……
しかも、こんな時に。
「ねぇ、リョウ。私と結婚するって約束してくれたら今すぐ彼女を離してあげるわ」
いつの間にかリョウを解放するのではなく、私を解放する方へと話が変わっていた。
リナさんの視線はリョウへと移っていて、彼女の右手には、たった今背後にいた男から手渡された一枚の紙がヒラヒラと揺れている。
距離があって何が記されているか見えないけれど、会話の流れから察してそれが“婚姻届”だと推測する事が出来た。
「……」
「サインするの? しないの?」
そう言った後、笑みを浮かべたままこちらに視線を向けてくるリナさん。
「いっ……!」
それが私を拘束している男達に向けての合図だと気付いたのは、掴まれていた腕をひねり上げられた後だった。