「真優ー!夏晴くん迎えに来たわよー!」


夏の生ぬるい風に、チリンチリンと鳴く風鈴が揺れている。

外は高い太陽が沈み、オレンジ色の夕暮れ時。



静かな夏の終わりに、お母さんの呼ぶ声がする。



「ごめんね、夏晴くん。真優まだ準備できてないの。」

「いえ、大丈夫です。」

「そう?本当にごめんなさいね。…それにしても夏晴くんかっこよくなったね〜。また身長伸びたんじゃない?」

「今年入って12センチ伸びました。」

「この時期の男の子の成長って早いものね。あんなに小さかったのに。」


母は目を細め、懐かしむように夏晴を見やる。
少し照れくさそうに夏晴は笑った。



「ごめん!お待たせ!おかーさん!下駄は?!」


いくら毎年着ようも慣れない浴衣に手こずり、大幅な遅れをとって玄関に駆け込む。


淡いピンクと白の花柄をあしらった浴衣、それに合わせた巾着。そしていつもより気合を入れて、髪は右サイドに高めに結った。
タイムロスはかなり激しいけれど、今日は特別な日だからしょうがない。



「下駄なら昨日出したでしょう?」

「ないの!昨日戸棚から出して、鼻緒の確認して……」


えっと、そのあとどうしたんだっけ…?

全く見当のつかないあたしを見て、夏晴がしたり顔で言う。


「おまえのことだから、今日が楽しみすぎて下駄でも抱いて寝ちまったんじゃねーの?」

「!」

そう言われ、自分の部屋のベッドの布団をひっぺ返すと、夏晴の思惑と通り下駄が出てきた。


「あーっ…!あったー!」

「ふはっ!ほらなー!」





夏晴くんは、となりの家のとなりの部屋に住む男の子。

小さいころから、あたりまえのようにいっしょに育ってきた。


人より少し負けず嫌いで、ちょっといじわる、でも優しい。


あたしよりあたしを知ってる、男の子。


そして、16回めの夏もいっしょに過ごすあたしの幼なじみ。