「先輩、私、先輩が好きです」
流れで言った言葉。
今言わなきゃチャンスが掴めない気がした。
「俺、冷たいよ?いいの?」
本当は冷たくないの知ってる。
だって今まで出会った先輩に、冷たいことなかった。
私には優しかった。
うぬぼれでもいい。
「はい。それでも先輩が好きだから」
先輩の顔を見ると優しく私を見る。
「ぢゃあ、彼女な」
うそー!!
私、先輩の彼女になりました。
先輩に気持ちを伝えられて本当によかった。
私は、先輩の手を握って歩いた。
今が幸せだったから。
分からなかった。
私達を見る黒い影に。
先輩と手を繋いで歩いた。
廊下、行き交う人、人、人。
みんなが見てる。
その中には亀井くんもいる。
亀井くんから視線を反らしつつ下を向いた。
亀井くんの視線を背中に感じ、歩いた。
ポンポン、と背中に、感じる優しく大きな手に安心し歩き出す。
パッと振り向くと亀井くんは居なかった。。
「見た?あの、郡日向に、彼女?女嫌いで有名なんに信じられない。」
誰かが言った。
郡先輩に彼女出来るのが、そんなに信じられないのかな?
「けどさぁ、私さっきから気になるんだよね。
なんか、見たことあるんだよね。あの子。一年前に、二人歩いてたの見たんだ。
かなり前から付き合ってるってこと?」
えっ‥‥‥‥‥‥‥‥?
一年前、私は、郡先輩にはあってないよ。
「どう言うこと?それ」
私は、迷わず女の子達に詰め寄る。
女の子達は、急に話しかけられびっくりしていた。
「えっ、ああ。あなた、一年前に郡先輩と手を繋いで歩いてたでしょう?ぬいぐるみ、うさぎのぬいぐるみ、抱き締めて喜んでた顔、可愛いカップルだな、って思ってたから、印象深くて」
うさぎのぬいぐるみ‥‥‥‥?
あれ、なんだか、不思議と胸がぶる、と震えた。
嫌な汗まで流れだし、気持ちが震える。
身体の震えが止まらない。。
「ちょっと、大丈夫?どうしたの?」
女の子の声が遠くに聞こえる。
"陽菜‼"
誰かが、私を呼ぶ声もこだまして、どんどん、きこえなくなってゆく。
私は、意識を手放した。。
気づいた時は私は、ベットの中だった。
鼻につく、薬品の匂い。見慣れた部屋。
ここは、学校の保健室だ。
カーテンが開かれて、そこにいたのは郡先輩だった。
「郡先輩。どうして?」
一瞬、訳が分からず混乱する私。
「大丈夫だよ。陽菜」
優しく髪を撫でる手つき。
なんだろう、安らぐこの気持ち。
「なんか、不思議なんですけど‥‥前から先輩のこと知ってたような気がして、先輩?」
なんだか、先輩の様子が変だと気づく。
「いや、何でもないよ」
気のせい??
「あっ、そうだ。そろそろ日向先輩って呼びたいなって「あのさ、日向って呼ばないで。」
えっ‥‥?
「名字にして」
どうしてって言う間もなく、"分かりました"と告げた。
先輩の様子が、変だと気づいてた。
だけど優しい笑顔を、見ると頷くことしかできない。
聞きたいこと、あるのに聞けなくて笑顔を返すしか出来なかった。
心の中は、泣きたくて泣きたくて仕方ないのに。
「陽菜、送ってくよ」
「いえ、先輩。一人で大丈夫です。病院に入院してる姉に会いに行くって約束したから。っていっても、植物人間なんですけどね」
ごく当たり前のこと。私には当たり前のこと。
「姉‥-??」
私は、気づかなかった。
真っ青になっていく郡先輩を。
「双子の姉です。姉が高校に上がる前、付き合ってる人に裏切られて 姉は、学校の屋上から飛び降りて一命はとりとめたけど、
ずっと眠ったままです。
その人がうちの学校にいるって聞いて、私探してます。
一つ上の先輩らしいです。」
「‥‥‥‥その人を探してどうしたいの?」
やっとこ、口を開いた先輩はまっすぐに私を見た。
「どうして姉から離れていってしまったのか、私、真実を知りたいんです。
どんな現実でも、姉の変わりに聞きたいです」
気づけば頬に涙がかけていた。
それを拭う先輩の長い指に。
また、安心して涙が流れた。
「先輩は冷たくなんかないです、優しいとっても」
ニコリ、と笑う私の笑顔に先輩が、くしゃり、と表情をかえた。