マンション前の電話ボックス。

 2階の部屋の窓を見上げる。

 繋がった受話器に話し掛けた。

「もしもし・・・」

「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」

 機械の声がそう繰り返す。

 電話を切って、もう一度掛け直す。

 でも、繰り返すのは同じ声ばかり。

 何度も掛けている番号。

 間違えるはずはない。

 部屋に行ってみよう。

 そう考えて玄関ホールへと向かった。

 管理人室の前を通り、不意にその横にあるメールボックスに目がいった。

「え?」

 彼がいた部屋のメールボックスには、違う名前が書かれていた。

「どうして?」

 急いで管理人室の前に戻った。

「すいません」

 小さな窓越しに、呼びかけた。

「はい、何でしょう」

 すぐに返事が返ってきた。

「あ、前に203号室にいた人は、引越しされたんですか?」