「彼ね、わたしだけじゃなかったんだ。他に付き合っている人がいたの。この前、彼の部屋に行ったら、知らない女の人がいて、二人は抱き合っていたの。その日はそのまま何も聞かずに帰ってきちゃった。次に会った時、誰だったのって聞いたら、自分のお姉さんだって言うのよ。でも、付き合い始めた時に聞いた話では、一人っ子だって言っていたから、おかしいよね」

 彼女の顔は見れない。

「調べてみたら、やっぱりお姉さんなんて、いなかった。昨日、彼に会ってきた。本当のことを聞いたら、嘘をついていたって認めた。その彼女とは、わたしと付き合う前からで、今もその関係は続いているって。だから、別れてきたの。わたしは自分だけを見てくれる人でなきゃ嫌・・・」

 涙で声を詰まらせた彼女の肩を引き寄せ、抱きしめた。

「・・・少し、このままでいさせて」

 彼女が胸に顔をうずめた。

 切りたての髪が頬を撫でる。

 肩までの長さに切られた髪。

 昨日か、あるいは今日ここに来る前に、切り揃えられたもの。

 いつもここに来る時の彼女の髪は、同じ長さ。

 それ以上でもなく、それ以下でもなく。

「髪を切ったからって、そんなに簡単に気持ちが切り替えられる訳でもないんだけれどね」

 そう言っていたのは、いつのことだっただろうか。

 彼女にとって、ここは失恋を癒すための空間になっているのか。

 一度もそう聞いたこともないし、聞かなくてもいいと思っていた。

 わかっているつもりだった。

 一番の友達のふりをしていた。

 自分の本当の気持ちに気づかないようにして。