今から数年前。
私は、知也の家に住んでいた。
私の地元は小さな村で、知也と私は小さい頃に婚約を結んでいた。
知也と私は仲が良くて、私としては婚約できて嬉しくて…
好きだから…ずっと一緒に居られると思っていた。
「遥香、好きだよ」
知也も私のことを好きだと言ってくれて…
この先も一緒だと思っていた。
知也が高校に上がってから、一緒に寝ていた部屋も別になって、一緒に過ごした時間も別になった来た。
寂しい気持ちに我慢なんか出来ない私は、知也に甘えたり、くっついたりしたけれど…
「忙しいから」
「止めてくれる?」
と冷たくあしらわれた。
きっと、知也は忙しくてイライラしてしまったのだろうかと思っていた。
けれど…現実は違った。
知也は…私のことなんか好きじゃなかった。
むしろ、反対の気持ちを抱いていたと思う。
それに気づいたのはあの日だった。
いつものように学校からの帰り道で、知也を見かけた。
周囲には知也の友達がいて、優しそうに微笑む知也に驚いてしまった。
私といるときは…そんな表情見せてくれない。
昔は見せてくれたけど…最近は会話もほとんどないんだもん…。
「知也、お前さ、居候してるあの子と結婚すんの?」
知也の友達が聞いてきた言葉に私は胸が締め付けられた。
居候という言葉には驚きが隠せなかったけど…
知也はどう答えるのか気になった。
「遥香は、婚約者じゃないよ。俺は結婚する気なんてない」
その言葉が少し離れた私の場所へ一直線で届いた気がした。
頭は真っ白になって…
彼の本当の気持ちを知って…
切なくなって…
悲しかった。
私一人だけが舞い上がっていた。
知也の気持ちを知らずに…私は知也に迷惑をかけて…重荷になって…
「彩と結婚するつもりだから」
彩という人の名前に私はある女性の顔が浮かんだ。
よく知也と一緒にいる女性だ。
私よりも綺麗で女性らしくて、知也を笑顔にしてくれる人…。
私は…知也のなんだろうか…
そんな気持ちに刈られながら、遠回りをして知也の家に戻った。