そんな僕、姉川純希は 最近気になる人ができた。好きかどうかはわからない。ただ気になる。
今日も仕事が少し落ち着いたから本屋に来た。別に彼女に会いに行く訳では無い。欲しい本があるので探しに行くだけだ。もう一度言うが、その「気になる人」に会いに行く訳では無い。
ない。お目当ての本は置いていなかった。
落胆しながら立ち読みしていた分厚いインテリアの本を仕方なく買うことにした。事務所の模様替えをしようと思ってたし、丁度いいだろう。
レジには誰もいなく、少し躊躇いながら控えめに呼び鈴を1度鳴らしてみた。
奥から小走りでレジに向かってくる女の子。あの子だ。黒色のエプロンは皺一つなく、質素なエプロンなのにとても上品にみえる。
「いらっしゃいませ!ブックカバーはお付け致しますか?」
「あっ…大丈夫です。」
手際よく袋に入れレジを打つ彼女とは裏腹に、彼女の屈託のない笑顔と緊張のあまりどもってしまった。情けない。
「あの、なにかお探しの本がございますか?」
そんなことを思っていると、予想外の言葉が返ってきた。彼女は僕が本を探している事に気づいていたらしい。なぜわかったのだろう?
「良くうちにご来店されてるのお見かけしていて…いつも同じ棚を見ているのに、今日は違う棚の本をご購入されていたのでそうかなと思ったのですが…ごめんなさい、気持ち悪いですよね。」
何という観察力。いや、接客業をしてる人は皆こうなのか?まあでも、平日の昼間は大概店は空いているからいつも来る人間の顔は嫌でも覚えてしまうものか。なんだか逆に申し訳なくなる。