深く頭を下げた浜谷さんを、その場にいた従業員全員で温かく迎え入れる。
大熊さんはこのことを知っているのかな?彼女は今日は残念ながら休みで不在だけれど、仲のいい二人のことだから知っていそうな気もした。

まったくの未経験者が来るよりも、もう十何年もコマチに貢献してきたベテランパートだった浜谷さんが来てくれる方が何百倍も戦力になるに決まっている。


そして予想通り、数ヶ月のブランクを感じさせないほどに浜谷さんは高速でレジ業務をこなしていったのだ。


私が入る予定だった時間帯に彼女が入ってくれたので急にやることがなくなり、昨日停電のせいで出来なかった料理教室の企画書の作成をしようと小会議室を借りることにした。

「亘理さん、小会議室を少しお借りします」

事務所のドアをノックして、中にいる亘理さんに声をかけると、彼はにこりと微笑んだ。

「どうぞ、使ってください」

「あの、浜谷さんは……ブラマを辞められたんですか?」


何気なく聞いただけのつもりだったのに、亘理さんの表情は浮かなかった。
それがどうしてなのか謎でしかなかったのだが、彼に手招きされて事務所に留まると、事情を聞かされてビックリした。

「─────すみません、まだちょっと信じられません」

「はい、俺も」

「本当に本当に、本当なのですか?」

「どうやら本当のようです。どうか他言無用でお願いします」


亘理さんもまた、先ほど浜谷さんに話を聞いて衝撃を受けたらしかった。
開けた口が塞がらないとはこのことだ。

「だって……まさか、そんな。ブラマが偽装表示してるなんて」

誰にも聞かれていないはずだし、こちらに落ち度はないはずなのに、悪いことをしている気分になった。


浜谷さんの話はざっくり言うと、ブラマに嫌気がさしたのだという。
ブラマで働くようになって、色々な実態が見えてきた。
勤務体系にも不満があったし、決められたことしかできないもどかしさや、人間関係のこじれ具合がストレスに感じていたところへ、追い打ちをかけるように─────

社員さんから、いくつかの商品を値付けする際に生産地を偽装するようにと指示されたというのだ。
それも、一度や二度ではなく、日常的に。

最初は見て見ぬふりをしていた浜谷さんだったが、次第に怖くなり、ついこの間辞めてしまったというのだ。

大熊さんにそういった事情を合わせて新しい仕事先を探していると話したところ、亘理さんに直接相談してみたらどうかと言われたらしい。
コマチに戻っておいで、と。