「あら、皐月ちゃん。どうして床に?」

キッチンから戻ってきたお母さんの手には木製のお盆。私は「こっちのほうが落ち着くので……」と、ソファーに移動することはなかった。

テーブルに出してくれたのはオレンジジュースとお菓子。
 

「いただきます」とジュースをひと口飲むと、あまりの美味しさに驚いた。


「これどこで売ってるものですか?」

味が濃くて果汁の香りが強く鼻に抜ける。


「ふふ、それ私の手作りなの」

「えっ!?」

「庭でミカンが取れるからよく作るのよ。たくさん飲んでね」

こんな手作りのジュースを津崎はいつも飲んでいるなんて、羨ましい。私は言葉に甘えて2杯おかわりしたところで、「あの、健太くんは……」と尋ねてみる。

すると、お母さんの顔つきが少し暗いものに変わった。


「自分の部屋で寝てるわ。呼んでくる?」

「い、いえ!」

思わず断ってしまったけれど、やっぱり津崎のことが気になる。本人に聞くよりもお母さんに聞いたほうが教えてもらえるかもしれない。


「あ、あの、健太くんの体調不良って……」と、言葉が言い終わる前に、ガチャとリビングのドアが開いた。


「お前、なにしてんの?」

それはスウェット姿の津崎。