お父さんとお母さんは恨み合って離婚したわけじゃない。それでも結婚生活を続けていくことができない理由がいくつもあったのだろう。

そんな大人の事情は学生だった私に分からないことだったけど、26歳の私なら理屈では罷(まか)り通らないことも少なからず理解はできるようになった。


『悪かったな。朝の忙しい時間に電話して』

スピーカー越しで車のエンジン音のようなものがして、どうやらお父さんもこれから会社へ出勤のようだ。


「……あ、あのさ、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

電話を切る前に、確かめておきたいことがあった。


『ん?なんだ?』と、お父さんが続きの言葉を待っていて、私はスカートのポケットから例の薬を取り出す。


「おじいちゃんってさ、パナルジンっていう薬飲んでなかったっけ?」

私が小学生の時に死んでしまったおじいちゃん。脳梗塞で倒れてからずっと入院生活になってしまい、よくお見舞いに行っていた。

薬を飲むのが苦手だったおじいちゃんを私はよく補助していて、当時飲んでいたいくつかの薬の名前は覚えている。そして、その中のひとつがパナルジンだったということも。