「……そうだね、キライだった。私はいつも大切なことに気づくのが遅いから」

島のことも住人のことも、若かった私は良いところを見つけるのが下手くそだった。


「でも今はこの島も悪くないって思えるよ。それで津崎とこうしてずっと一緒にいたい」


津崎に抱いている気持ちも、私は気づくのが遅かった。だから後悔ばかりが残った。

遠くでさざ波の音が聞こえる。私が津崎のことをじっと見つめると、その瞳が不自然に横を向く。反らしたのは津崎のほう。


タイミングとかシチュエーションとか、それなりに考えていたけど、今、気持ちを伝えたくなった。

時間はこの瞬間でも、刻を刻み続ける。待っていてはくれない。もうすぐ、きみを失った8月がくる。


「私、津崎に言わなきゃいけないことがいっぱいあるんだ。私、津崎のこと――」


ふわりと、津崎の手が私の唇を塞ぐようにして伸びてきた。


大きな手に覆われた口元。暖かかったはずの津崎の体温が、今はとても冷たい。


「それ以上、言うな。聞きたくない」

それは私を弾くような目をしていた。


そのあと互いに言葉を探したけれど気まずさは拭えずに、「そろそろ帰ろう」と、腰を上げたのは津崎。

石の壁では津崎に手を借りながら降りたけど、地面に足を着けた瞬間に、パッと離れた。

来た道を戻り、私たちはまた島へと続く砂の道を歩く。