「嘘でしょ……」
私はポカーンとした顔で津崎を見上げる。
「早く来い」と、津崎は手を伸ばしてくれているけれど、私は全力で首を横に振った。
「ム、ムリムリ……ッ。けっこう高いし、石の壁なんて登ったことない」
「大丈夫だよ」
「途中で落ちたら……」
「たかが二メートルぐらいだよ」
「でも……」と私が続けようとすると、津崎の顔が次第にイライラしていることに気づいた。そして深いため息をつく。
「じゃあ、ひとりでそこにいろ。ヘビ出るけどな」
「ヘ、ヘビ……!?」
背中がぞわっとした。爬虫類はそもそも全般的に苦手だけど、ヘビはその中でも一番ダメ。あのにょろにょろとした体を想像するだけで鳥肌がとまらない。
「じゃあな」と、津崎が私を見捨てようとしたので、慌てて涙声で引き止める。
「一緒に行くから待ってっ……!」
すると、津崎はまたすぐに手を伸ばしてくれて、ほとんど引き上げられるようにして私は上へと登った。
自然とすがるように津崎の洋服を私は掴んでいて、チラッと下を見るとやっぱりけっこうな高さ。
「こっち」と、津崎はもう一段高い岩に足をかけて、私はエスコートされるように進む。
「っていうか、こんなところ登ってもいいの?」
神様が住んでいる神聖な場所だし、登ったあとに言うのもおかしいけれど。
「お前が言わなきゃ誰にもバレねえよ」
「そうだけど……」
「見て」
津崎がふいに、指をさした。
その先には海が見えて、上空に浮かぶ月が水面をゆらゆらと漂っている。
「うわ……」
単純なことに、私はすっかり景色に見入ってしまった。