空はとても深い藍色をしていて、うさぎに噛られたような半月が浮かんでいる。

珍しく肺に入っていく空気が暑くなくて、とても清々しい気温をしていた。

私が向かったのはもちろんあの場所。夜風を浴びながら海岸沿いを歩いて、ふと足をとめる。まっすぐに伸びた防波堤。その先端に立つ後ろ姿を見て胸がぎゅっと締め付けられる。


「津崎」

私は名前を呼んだ。

ゆっくりと振り向いたその顔は月に照らされて、瞳がビー玉のように一瞬煌めいた。


「具合悪かったんじゃないの?」

問いかけながら私は津崎へと近づく。


「寝てればよくなるって言ったろ」

何故か津崎もこちらに向かって歩いてきた。その足音はやっぱり特徴的。ザッザッって、すぐにサンダルの靴底をダメにしてしまいそうな音。だけど不思議と心地いい。

ピタリと互いの足が防波堤の中央でとまり、私たちは向かい合った。


月夜を背にした津崎は妖艶な雰囲気を持っていて、綺麗というより奇麗だった。

見上げなければ目が合わない背丈。こうして見下ろされると私は幼い子どものように動揺してしまう。


「なにしてたの?もしかして帰るところ?」

今日はいないと思ってたから、こんなことなら早く来ればよかった。


「いや、今からあそこに行こうと思って」

津崎が北側の海を指さす。そして「くる?」と言われたので、もちろん私は「行く!」と答えた。